1.突然の始まり

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今はただ一人。 その人のことしか頭にない。 今までは適当に付き合う方がずっと楽だったから、オレも必要以上に好きにはならなかった。 正直本気で好きだと思える相手は誰一人いなかったし、この先そんな相手が現れるのかも疑問だった。 だけど今はまともに話したこともない相手に本気になっている自分がいて、昔のオレが知ったら笑われそうなレベル。 なのに今はずっとその人しか目に入らなくて。 その人の名前は望月 透子(とうこ)。 オレよりずっと年上なその人は、きっとこのオレの早瀬 (いつき)という名前さえも知らない。 27にもなってガキみたいなある意味初恋かよと自分で呆れるレベルの恋愛を今更続けて、自分でバカみたいだと思うけど。 だけど、今までのオレはその人に声をかけることさえも出来なかった。 オレよりずっと大人のその人に、8歳も年下の頼りないオレなんかを知ってもらえたところで何も始まりはしないと十分わかっていた。 だから、オレはその人を好きになってから、その人に釣り合う男になることだけをひたすら目指した。 いざ知り合えた時、そんな年齢差も感じさせないくらいせめて形でも大人の男になれるように。 ずっと憧れていたその人と、いざ話すとなれば、どうしようもなく余裕がなくなって情けなくなるのが目に見えてたから。 だからオレは仕事でもそれ以外のことも自信をつけて、いつかのその時を迎えらるように準備をしていた。 なのに年月をかけてようやくその自信をつけたのに、結局そんな簡単に声をかけるチャンスなんてなくて。 こういう場で昔みたいな軽いノリに戻る時があると、昔の自分を思い出すと同時に、あの時から変わったはずなのに、今まだ何も行動出来てない自分がもどかしくて仕方ない。 「悪い。間に合ってるから」 軽く声をかけたその女にそう答えて、煩わしい場から一旦非難した。
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