もう少しだけ…

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早瀬咲穂は、俺が日本史を教えている高校3年生の生徒だ。 その早瀬に、俺は昨日、告白された。 放課後、担任をしている2年生の教室で片付けをしていた時、ふと早瀬が声をかけてきた。 「先生…」 「ん?早瀬、どうした? 2年のクラスに来るなんて珍しいな。」 「先生、この前、授業中に昔飼ってた犬の話してくれたでしょ? あの話、もっと聞きたいなーと思って…」 楽しそうに、でも少し恥ずかしそうにはにかみながら早瀬は言った。 犬の話は、確かに話した。 『昔飼ってた犬が、俺のご飯を横取りする為に二足立ちを覚えた』という、しょうもない話だ。 「私も犬、飼ってるんです。」 にこっと笑う早瀬は、それだけで“犬が好きなんだな”と感じさせていた。 それから、他愛もなく俺の飼ってた犬の話、早瀬の飼ってる犬の話をした。 気付けば、もう一時間も経っていた。 そろそろ帰らせないと… そう考え始めた頃、早瀬がとんでもないことを口にした。 「先生、私ね… 先生のこと、好きなんだ!」 一瞬にして、思考が止まった。 「こんなこと言うと、先生が困るのは分かってる。でも、どうしてもちゃんと気持ちを伝えたくて…」 俯きながら言う早瀬の言葉には、緊張と覚悟が伝わってきた。 「あ、返事は今はいいから! 今は…まだ…覚悟が出来てないというか… 出来れば、少しは考えて欲しいというか…」 ね?と言う早瀬は、今度は少し辛そうに笑った。
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