琥珀色の白銀

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*** 次の日の朝。 咲希はリズム良く階段を上がってきた。 俺がいる事には気がついてなくて、深呼吸して呼吸を整えている。 そして、毎朝しているように「今日も友達と仲良く過ごせますように」とお願いしていた。 「よぅ」 急に後ろから俺に声をかけられた彼女は、ビクッと体を震わせ振り返る。 「あ!えっと、すみません、あの、すぐ行きますので」 危ない奴かと思われたのか、そそくさと帰ろうとする咲希の前へ回り込み、「違う!違う!怪しい奴じゃないから!」と片手を左右に振った。 俺の見た目…明るめのブラウンヘアに、金色の目で強面な顔、そして長身。怖がられるのも無理はない。 服は黒のパーカーとジーンズというありふれたものだけど。 「あー…信じて貰えないかもしれないけど、俺、ここの神様の息子」 「宮司さんの、息子さん……?」 「違う。ここの神の子供」 咲希の眉が歪んだ。何を言ってるんだと言う表情だ。まぁ、普通そうだろうな。 「あー…じゃあ、証拠見せる」 俺は濃い白煙と共に狼に戻った。 と、言っても普通の狼よりもかなり大きいからか、多分怖い。いや、かなり怖いだろう。 彼女の目が大きく見開かれ、叫ぶ一歩手前で人間の姿に変わり、咲希の口を押さえる。 「信じた?」 俺の言葉にコクコクコクと咲希は小さく何度も頷いた。 「俺が手を離しても叫ぶなよ?面倒臭いから。分かった?」 この言葉にも彼女は何度も小さく頷く。 それを見て、俺はそっと手を離した。 「今回お前の前に姿を現したのは、信心深いお前に対する礼だ。毎朝ここに来てくれてるだろ?俺の親父はお前の行いを喜んでいる。でも、1つ。俺らは狐じゃない。狼だ。見ろ、あそこにも銀狼を祀った神社だと説明書きしてあるし、狛犬も狼をかたどってある。よく見ろ。な?」 「あ……本当だ。ごめんなさい。稲荷神社かと」 「だから、油揚げより、肉の方が嬉し…イッタ!」 陰で見ていた親父が俺に静電気のような雷を背中に突き刺す。 「でも、さっきのあなたを見たら、銀狼ではないのね?」 その言葉が親父の雷より深く心に突き刺さる。 「…あー…まだ俺、修行の身だから。簡単には神様にはなれねってことかな…。とりあえず息子の俺が親父に代わって礼を言う。毎日ご苦労さん、ありがとよ。んじゃ」 手をヒラヒラさせて、社の中に帰ろうとする俺に咲希は引き止めた。 「あの!神様の息子のあなたに名前を聞くのは失礼なのかしら?もし良かったら教えて貰えない…?あ、丁寧な言葉じゃなくて、ごめんなさい。教えて頂けますか?」 「あ、いーよ、いーよ。タメ口で。俺は真狼。真剣の真に狼でま、ろ、うだ。お前は咲希だよな」 「うん!私の名前も分かっちゃうんだ。やっぱり神様なんだね!すごいな、真狼くん。良かったらこれからもよろしくね。じゃあ、私、学校へ行ってくる!」 彼女は何度も振り返りながら手を振り、それから階段を駆け降りて行った。
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