14人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
***
次の日の朝。
咲希はリズム良く階段を上がってきた。
俺がいる事には気がついてなくて、深呼吸して呼吸を整えている。
そして、毎朝しているように「今日も友達と仲良く過ごせますように」とお願いしていた。
「よぅ」
急に後ろから俺に声をかけられた彼女は、ビクッと体を震わせ振り返る。
「あ!えっと、すみません、あの、すぐ行きますので」
危ない奴かと思われたのか、そそくさと帰ろうとする咲希の前へ回り込み、「違う!違う!怪しい奴じゃないから!」と片手を左右に振った。
俺の見た目…明るめのブラウンヘアに、金色の目で強面な顔、そして長身。怖がられるのも無理はない。
服は黒のパーカーとジーンズというありふれたものだけど。
「あー…信じて貰えないかもしれないけど、俺、ここの神様の息子」
「宮司さんの、息子さん……?」
「違う。ここの神の子供」
咲希の眉が歪んだ。何を言ってるんだと言う表情だ。まぁ、普通そうだろうな。
「あー…じゃあ、証拠見せる」
俺は濃い白煙と共に狼に戻った。
と、言っても普通の狼よりもかなり大きいからか、多分怖い。いや、かなり怖いだろう。
彼女の目が大きく見開かれ、叫ぶ一歩手前で人間の姿に変わり、咲希の口を押さえる。
「信じた?」
俺の言葉にコクコクコクと咲希は小さく何度も頷いた。
「俺が手を離しても叫ぶなよ?面倒臭いから。分かった?」
この言葉にも彼女は何度も小さく頷く。
それを見て、俺はそっと手を離した。
「今回お前の前に姿を現したのは、信心深いお前に対する礼だ。毎朝ここに来てくれてるだろ?俺の親父はお前の行いを喜んでいる。でも、1つ。俺らは狐じゃない。狼だ。見ろ、あそこにも銀狼を祀った神社だと説明書きしてあるし、狛犬も狼をかたどってある。よく見ろ。な?」
「あ……本当だ。ごめんなさい。稲荷神社かと」
「だから、油揚げより、肉の方が嬉し…イッタ!」
陰で見ていた親父が俺に静電気のような雷を背中に突き刺す。
「でも、さっきのあなたを見たら、銀狼ではないのね?」
その言葉が親父の雷より深く心に突き刺さる。
「…あー…まだ俺、修行の身だから。簡単には神様にはなれねってことかな…。とりあえず息子の俺が親父に代わって礼を言う。毎日ご苦労さん、ありがとよ。んじゃ」
手をヒラヒラさせて、社の中に帰ろうとする俺に咲希は引き止めた。
「あの!神様の息子のあなたに名前を聞くのは失礼なのかしら?もし良かったら教えて貰えない…?あ、丁寧な言葉じゃなくて、ごめんなさい。教えて頂けますか?」
「あ、いーよ、いーよ。タメ口で。俺は真狼。真剣の真に狼でま、ろ、うだ。お前は咲希だよな」
「うん!私の名前も分かっちゃうんだ。やっぱり神様なんだね!すごいな、真狼くん。良かったらこれからもよろしくね。じゃあ、私、学校へ行ってくる!」
彼女は何度も振り返りながら手を振り、それから階段を駆け降りて行った。
最初のコメントを投稿しよう!