琥珀色の白銀

5/5
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
*** 満月の夜。 珍しく夜に咲希がやってきた。 「真狼くん、今日は牛肉のステーキと、卵のスープを持ってきたよ。お小遣い代奮発したんだ。勿論ご家族の分も持ってきたから、皆さんで食べて」 咲希は社の奥に声をかけるようにいつも話す。 親父と母さんは、咲希の前に姿を現したことがない。 やはり、神となると簡単に人間の前に出る事はできないのだ。 しかし、一度だけ咲希の夢に現れて、「昨日は牛もつ炒めをありがとう。いつも息子が世話になって感謝している」と声をかけたことはあったらしい。 咲希はそれを喜んでいた。 「真狼くん」 「んー?」 「今日は大事な話があるんだぁ」 食べやすいようにカットされたステーキを、箸でつまみ口へ放り込む。 「私、引っ越しするんだ」 咀嚼する口が勝手に止まり、咲希を見る。 咲希の父親の仕事の都合で、またどこか他の土地へ移ることが決まったらしい。 「もう、会えないかと思うと寂しいけど、真狼くん、立派な神様になってね。応援してる。それに、たまにここに会いにくる」 急な話についていけず、「冗談だろ?」と俺は笑ったが、そうではないっぽい。 美味しかったステーキの味がしなくなる。 「私がもう少し大人になったらこっちに就職先を探すよ。そしたら、また毎日会えるね」 咲希は笑顔だったが、声は震えていた。 目も微かに涙で揺れている。 「……咲希、俺はお前に感謝してる。人の親切とか、厳しさとか知ったし、人を心配する気持ちや愛するって事も知った。てか、何が言いたいかってっと……俺、咲希が好きだ。 だから、遠くに離れても元気で俺のこと忘れずにいて欲しい」 「……私も。私も真狼くんの事、好きだよ。でも、神様の子供だから、そんな事を思うのはバチ当たりな事かと思って黙ってた……でも、ここで出会った人たちの誰より好き」 「咲希……」 その時。 俺の体が強く痛んだ。 「う……っ」 「真狼くん!?どうしたの!?大丈夫?」 勝手に狼の姿に戻り、俺は背中を丸めて苦しんだ。 「真狼くん!?」 体の内側から出る炎のような熱い痛みと、氷漬けにされたような悪寒と入り混じる。 そして、一瞬、雷のような眩しい光が俺の体から天に昇ったが、それはすぐに消えた。 その眩しさに咲希も目を細めたが、狼の俺を見て、「真狼くん……だよね?大丈夫?」とそっと俺の背中の毛を撫でる。 「大丈夫。なんか、急に……苦しくなって」 ツラくて急には動けなかったが、目を開けると咲希が心配そうに俺を見ている。 「真狼くん、からだが……変身…」 「……え?」 ゆっくり体を起こすと、俺の体の毛が。 白銀に変化していた。 「え……」 なん、で……? *** それから。 咲希は遠くへ行ってしまった。 俺は神としてはまだまだ未熟で、親父の元で、修行に励んでいる。 まぁ、でも、神様の卵からひよこへとは変身したワケだ。 咲希は偶然この町へ来たけれど、俺にとっては必然だった。 この地に住む人々への平和や感謝を咲希のお陰で知る事ができた。 咲希はいつか人間の男と結婚するのだろうか? それとも俺が美人の狼でも見つけるのだろうか? 今のところ、俺は神と言われても人間の咲希が好きだし、咲希も俺が好きだと言ってくれてる。 (親父に言わせりゃ、まだ神なんて名乗るのは早すぎるらしいけど) まぁ、一応俺の銀色の毛をお守り袋に入れて咲希に持たせている。 アイツに幸運が来るように、危険がないように、そして、悪い虫がつかないように。 そして。 今日は久しぶりに咲希が会いに来てくれる日だ。 今回はどんな話をアイツから聞けるのか今から楽しみだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!