4.平凛(ヒラリ)

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4.平凛(ヒラリ)

 ある土曜日の午前中、平凛(ヒラリ)から電話がかかってきた。 平凛というのは海の街で知り合った神宮寺家の長女で、当時中学生だった彼女が事故に遭い、死にかけたところを心臓マッサージして助けたのだが、胸を触られたと思った彼女は、(けが)されたと思い込み、当時の室長に嫁入り宣言をしたこともあった、という経緯がある。 「ダンナ様、お久しゅうございます。平凛でございます」 (まだダンナ様って言ってるよ、平凛のヤツ…) 「ぁ…ああ、、平凛も元気そうで良かったよ。何かあったのか?」 「実は今、高知の阪急ホテルにいるんです。ダンナ様にお話があるので、お会いしとうございます」 「あ、うん、特に用事はないから行くよ。そこに行けばいいのか?」 「ハイ、3階にカフェがあるので、そこでお待ちしております」 「わかった。10分で行くよ」  今日はアリスの参観日で、レイも学校だ。オレもヒマだったから、まあいいか、とオレは軽い気持ちで向かった。  ホテルのカフェに着くと、意外におしゃれで驚いた。普通のホテルのように、テナントの四角い空間に無理やりカフェを詰め込んだという感じは全くなく、吹き抜けを利用した広い空間に天井から吊り下げられた細い無数のガラス棒がハープの弦のように並べられその上から色とりどりのLED照明が当てられて、様々な色のグラデーションを見せていた。周りをやや暗めに設定してあるので、まるでオーロラを見ている感じだ。 「平凛のヤツ、こんなムードのあるとこに呼んで、何なんだろ…?」  店に入るとすぐに平凛は見つかった。どこにいてもすぐにわかる美人だしな。オレは一目見て、 (平凛のヤツ、また一段とキレイになってやがんな…) 確か今は23歳だから、一番輝いてる時だよな。彼氏はいるのかな…。とか考えたら、ちょっとムカッときた。 「やあ、平凛、またキレイになったな。何年ぶりだ?」 とオレは言いながら平凛のテーブルの向かいに座った。 「2年と225日ぶりでございます。ダンナ様」 「ちょ…」 (数えてやがったのか?この娘…)  ウエイトレスがオーダーを取りに来たので、オレはコーヒーを頼んだ。  「で…で?は…話ってのは、な…なんだ…?」 超絶美人を前に、オレはおもいっきり噛んだ…。
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