「移動魔法」

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「移動魔法」

    「もういいわよ。とりあえず宿に戻ろ。魔王はまた次、追い詰めるしかないし」  魔法使いがそう言った。 「――――……あーマジかよ……また居場所探しからやり直しか……」  勇者がもう、低い低い声で、かみしめるように呟く。 「仕方ないかな。逃げるだけの余力がまだあったって事だから――――…… 結局今日は最終決戦じゃなかったって事なんじゃないかな。また頑張ろう、ルカ」  騎士が、涼しい声で。少しだけ肩を竦めながらそう言った。 「宿戻るよールカ、こっち来て」  魔法使いの周りが、ぶわ、と光る。  あ、もしかして。 移動魔法、だ。  ――――……うわー、これ見れるって、なんか感動する……。  一瞬自分の状況も忘れて、ぽーっと見つめていると。  勇者が、オレの腕をぐい、と引いた。 「え?」 「こいつも連れてく」  え、何で。と思ったけれど。  よく考えたら、ここ、この人達が居なくなったら、魔王が今まで住んでた、城というか洞窟というか。よく考えなくても、結局魔王は滅びてないんだから、ここには魔物がいっぱい、いる訳で。  …………1人で置いていかれたら、ここ、出る前に死ぬな。オレ。  ていうか運よくここから出られても、外で、魔物に遭って、死ぬな。うん。 「来るだろ?」  ……うん、ついてく。  思わず、勇者の腕にぎゅ、としがみついてしまう。  ドSだろうが、性格ちょっと歪んでようが、勇者は勇者。   まわりに頼もしい仲間も居るし。  オレの目が、いつ覚めるかも分からない以上、もう、とりあえずついてくしかない。  この世界で死んだら戻れるかもしれないけど、  万一この世界で死んだら、現実のオレも死んじゃったら困るし。  こんな異常事態、何がどうなるかなんて、さっぱり読めないし。  ていうか、ほんとにこの夢、はっきりしすぎていて、  何かもう、怖いしかない。  夢じゃなかったらどうしよう。  ……でもこんなの夢だよね。  自分がやってたゲームの中に入って、中の人達と、きっとゲームの設定にはないセリフで話して……。  ……うん、夢だな。  早くさめてくれー。  と、思うのだけれど。  勇者と共に、魔法使いの近くの、白い光の中に入ると。  呪文が唱えられて、ふわ、と体が浮いた。  白い光に包まれるように、何だか、ずっと浮いたような感覚がしてて。  ふっと気づいたら、どこかの町の入り口に立っていた。 「う……わ――――…………」  ――――……すっご……!!  オレ今、移動魔法で、飛んだ!  夢でもなんでもいいや、すごい経験をした気がする。  こんな風に、ゲームの中のキャラ達は飛んでたんだ。  どんな原理?  原理とかないのか、魔法だもんね。  ていうか、魔法ってそもそも何なんだ。  超能力とは違うのか?    呪文があるのが魔法?   なんだろ???  全然分かんないけど、すっごい楽しかった!! 「え? なに??」  魔法使いが、オレを見て、ぷ、と笑った。 「なんでそんなに嬉しそうなの?」 「……飛んだの、初めて」 「ああ、移動魔法? なかなか使える人居ないもんね」 「感動してるとこで」  じーん、と浸ってると。 「変な子」  クスクス笑って、魔法使いがオレの前に立つ。 「楽しかった?」 「うん! めちゃくちゃ、すごかった」 「あはは。 じゃあ明日、色んなとこ、連れて行ってあげようかなー」 「え、ほんとに?」 「いいよー?」  もし夢がさめてなかったら、ぜひ!  ていうか、明日迄、目、さめなくていいや!  やったー、と喜んでると、魔法使いがさらに一歩、オレに近付いてきた。 「かーわいい」  クスクス笑われて、ぷに、と頬に触れられる。
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