5章. Submarine

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5章. Submarine

〜中央区〜 ICSA Ltd. (国際クラウドセキュリティーアライアンス) 元社長である父、荒垣芳正の葬儀は、異例ではあったが、状況を(かんが)みて、厳選した著名人のみで行われた。 喪主を務め、その挨拶で、自分と父の関係を公表した徹。 数々の技術的功績と、日本先端技術研究所での働きは、IT関連事業の世界で充分に評価されており、名前もある程度知れていた。 社長就任、及び会社の今後についての公表については、一週間の期間を空けた。 この間、当主なき大企業が、特に問題なくあり続けることができたのは、芳正が築き上げた、信頼関係の絆と、それに見合う技術力の賜物(たまもの)であった。 そんな中でただ1人、予期せぬ事態に焦り、裏側で奔走する人物がいた。 副社長の相馬和正(そうまかずまさ)である。 創立から、共に社を担ってきた功績は大きい。 芳正が()い先短いと知った彼は、次期社長の座を狙っていた。 ただ…社内では、経営本部長を兼務する彼には、その裏の顔や、汚れた金の噂が絶えず、技術本部長である、洲崎武文(すざきたけふみ)の方が有望視されている。 一週間を社長室と、専用の開発・研究フロアで過ごした徹は、ついに全世界生中継で、社長就任会見の場を設けたのである。 プレゼン用の広いホールに、専用Webのカメラがセットされ、大勢の報道陣や関連業界の人々が詰めかけた。 騒然とした雰囲気の中、徹と秘書の峯岸由美(みねぎしゆみ)、顧問弁護士の日下部章(くさかべあきら)の3人が、舞台に立った。 世界中が、彼の言葉に耳を傾ける。 「初めまして、亡き父の意思を尊重し、ICSAの社長に着任いたしました、工藤徹改め、荒垣徹です。この一週間、私は父芳正の残したものと、世界における我が社の状況を、隅々まで頭に叩き込みました。世間では、若輩な私を非難する声もあります。当然のことでしょう。私自身、あまりにも突然な転機に、その重責に、この技術と私の知能で…父を生き返らせる方法はないか?或いは黄泉の国から呼び戻し、体を預ける方法は?と、バカげたことを真面目に思慮したものです」 上手いトークトーンとテンポで、場の緊張感を解きほぐす。 「一週間、私にできるのか?私でいいのか?その疑念と闘いながら、(あるじ)不在の会社を見ていました。その結果、そんな私を奮い立たせてくれたのは、我が社で働く社員や関連会社の方々。そして、信頼してくれる世界中のお客様達です」 〜日本先端技術研究所〜 「徹のやつ…一週間で、あの大企業の本質を試しやがった!」 社員達とWeb配信を見ていた、信之が呟いた。 〜警視庁対策本部〜 「あの度胸、堅気(かたぎ)にしておくには、勿体ねぇな。気に入ったぜ」 「なかなかやるじゃない。ヤクザにこそ勿体ないわよ、神」 「て言うかさぁ…何で警視庁(ここ)に、ヤクザの組長がいるわけ?」 Web配信の見方が、誰一人として分からなかった飛鳥組であった💦 「そう言うヴェロニカ、お前こそ、何でまたここにいるんだぁ?」 「こう言うのは、皆んなで見た方が楽しいじゃない❣️堅いこと言わないのよ、淳ちゃん」 「ちゃんって、おい❗️」 「淳、静かに❗️」「はい💧」 仲の良い仲間達である。
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