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〜東京千代田区〜
四ツ谷にある赤塚擁護学園。
園長の赤塚静雄は、日本児童育成会の会長を務め、幅広い活動を推進している著名人である。
親を亡くした子供や、捨てられた子供、育てられずに預けられた子供。
そんな子供達を、立派に育成するモデル施設として、この擁護学園を設立していた。
「赤塚会長、この度はご協力をありがとうございます」
日本先端技術研究所の主任技師、工藤信之。
彼は、親を知らない境遇でありながら、類い稀なる知能と、逆境に負けない懸命な努力により、成功した1人であった。
そのため、孤児への思い入れは強く、擁護施設向けの教育システムを、開発したのである。
「いえいえ、おかげ様で園児の学力育成に、大変助かっております」
「呼んでいただいたのは、何か問題でも?」
少し前から、一度来て欲しいと連絡があった。
ようやく時間がとれた工藤は、不安と期待の心持ちで、学園を訪ねていた。
システムを用いた教育ルームに入る。
「あの子を、見ていただきたいと思いまして」
複数のPC端末を、巧みに操作する男の子。
明らかに、他の子とは違う、異質な存在感。
「こ…これは…❗️」
「どうやら、貴方の学習システムに、ここの園児一人一人の個性を加え、それぞれに合ったシステムに改良している様なのです」
「まさか!私のシステムを理解し、改良を?」
「ええ。私には全く分かりませんが、あの子によって、カスタマイズされたシステムを使用した園児は、著しくその能力を伸ばしているのです」
画面には、複雑な数式が入力され、工藤でさえ理解できない回路が組まれていた。
「あの子はどう言う…」
「徹君、5才。縁あって、生まれて直ぐに、母親から私が預かりました。名前は、その母親が唯一あの子に加えた証です」
赤塚の言う『縁』の意味は想像できた。
知人や自分と関係があると言う理由で、安易に命を預かる様な彼ではない。
母親が、手離さなければならない理由。
更には、この子が生まれた境遇、その社会から存在を消し去る必要性。
それが真の理由なのである。
しかし、この時の工藤には、そんな理由よりも、なぜ赤塚が自分を呼んだのか?その意味の方が重要であった。
暫く考えた末、答えを出した。
「…分かりました。あの子は、私が里親として、大切に育てます」
それ以上のやり取りは、もはや無用。
それに気付いたかの様に、工藤を見つめる瞳。
(なんて清らかで、温かい目を…)
それが、信之が徹に感じた『可能性』の始まりであり、同時に、徹の運命の道筋を大きく変えた瞬間であった。
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