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1章. Silent 〜静かな始まり〜
12月の東京。
街中が競うかの様に、色鮮やかな電飾で、デコレーションされる季節。
11月半ばから、街はクリスマス色に染まり始め、1年で最も美しい東京に変わる🎄。
和の香り漂う🌸春の桜や🍁秋の紅葉よりも、ファンタジックな西洋の文化に、誰もがいつもとは違う感覚を抱く。
〜港区〜
冬の訪れを告げる風物詩『SNOW & BLUE』。
けやき坂の並木に、約70万個の白と青の光が灯り、変わらない冬の景色を作り出す。
日本先端技術研究所は、その通りに立つIT関連の研究・開発ビルである。
「今年も綺麗ですね、所長!」
所長の工藤信之に、アシスタントの日比野葵が元気に話しかける。
「ああ、このイルミネーションを見ると、今年もあと少しだな…と、なんだかホッとするよ」
「相変わらず地味なんだから、も〜。このまんまの流れで、行く年来る年見て、どっかのお寺の鐘に手を合わせて締めくくるんでしょ?」
「……」(所長)
図星であった💧
「そ💦そう言う葵さんは、まだあの彼と?」
「まだとは失礼な!」
「あっ、つい。ごめんごめん💦」
「…別にいいですけど。それよりその前に、クリスマスっていうお祭りがあるのを忘れていませんか、所長?」
イエス・キリスト降誕記念の聖誕祭ではあるが…多分、彼女の言う『お祭り』ではない💧
「そうだね、ただ…研究所の連中はあの通り、そう言うものとは無縁なんだよ」
21時過ぎ。
沢山の明かりが残ったビルを見上げる。
「研究熱心なのは…感心しますけど、恋とか興味ないのかなぁ…」
工藤も独身で、研究一筋の人生であった。
「恋ですか。学生の頃まででしたね。私なんかの彼女になったら、きっと退屈で可愛そうですよ、アハハ」
「所長はいい人なんだけどなぁ〜。カッコイイし。彼も…そうなるのかな…」
「徹か?ほとんど家には戻らないしな…。まぁ、明日のセレモニーが済んだら、話してみるよ」
「いちおう父親なんだから、シッカリしてくださいね。じゃあ、私は地下鉄なので、また明日。頑張ってください!」
「ありがとう。おやすみ葵さん」
地下へと降りて行くのを見送り、タクシーを拾う工藤。
(明日から、新しい第一歩が始まる!)
乗り込む瞬間、彼のいる部屋の明かりを見上げて微笑んだ。
(良く、頑張ったな、徹)
タクシーは、幻想的な並木道を抜けて、走り去って行った。
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