2.飼い猫になりたい

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 グスグスと鼻をすすりながら、スマートフォンをくわえて地面に置き、何の着信だったのか確認する。 『須藤さん、生きていたんですか? 助かったんですね? 今、どちらに居られるのですか?』  後輩の青木君からだった。それは、私が『元気?』と送ったメールへの返信……。  前に一度、鍋パーティをやろうと、同僚と一緒に、青木君の家に押し掛けたことがあったっけ。  区役所前の駅を降りて、裏道に入ってすぐのアパートだったから、ここからでもそう遠くない。歩いて行ける距離のはず。 『今から行ってもいい?』  私は、肉球の太さに苛立ちながら、なんとかメッセージを打ち込んで送信した。  たしか、青木君は猫が好きで、いつか猫を飼いたいって言っていたような気がする。  私が勤めていたのは、雑誌社として創業しながら、IT化の潮流に上手く乗って成長したWEBメディア企業だった。  社会班の記者として第一線に立って取材に明け暮れていた三年目に入社してきたのが、青木君であり、つまり、青木君は私より、三つ年下。  私には、学生気分の抜けない新米だった頃の青木君をビシバシと指導して、一人前の記者に育てたという自負がある。  彼は、今も私には頭が上がらないはずよね。  きっと、私を飼ってくれるわ。  弾けそうな胸の高鳴りを抑えて、アパートの三階まで外階段を一気に駆け上り、ドアの前に立った。  息を整え、はるか上に見えるインターホンを目がけてジャンプし、ボタンを押す。 「はーい。どなたですか?」  インターホンのスピーカーに、返答があった。 「にゃあん。にゃおん、おん」 (須藤沙羅です)  通じるわけないか……。
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