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「シャアー。シャアー。シャアー」
カリカリと鉄扉を掻いて、(出てきて、私に気付いて)と念じる。
すると、部屋の奥から、こちらに向かってくる足音が聴こえた。
よし、これで飼い猫になれる。私は、清楚な雰囲気を出すために、三つ指をつくような格好をして、かしこまって待つ。
「誰? 誰かいるの?」
チェーンロックをつけたままドアがあいて、青木君が顔を出した。辺りを見まわして、最後に足元の私に気付く。
「あ? 猫?」
愛おしく見つめる私と確かに目が合ったけど、興味なさそうに、速攻で、ドアを閉められた。
「ギャアー! ジャアー! シャアー!」
(コラ、気付けよ、アオキ!)
まくし立てるように、ドアの塗装が剥げるほど、激しく搔きむしる。
ガチャ。
「なんだよ、まったく。なんなんだよ」
青木君がしゃがんで、視線の高さを合わせてきた。
俳優とアイドルを足して二で割ったような、相変わらずのイケメン顔が鼻先に近づいてくる。
「どっから来たんだ?」
「にゃあ」
(私よ)
青木君は、じぃーっと、私を観察した。そして、ようやく事態を察したようで、おもむろに口を開く。
「迷子にでもなったのか? ……ジャマイカ」
ちょっと! どこまで勘が鈍いのよ、青木君! 昔から、ちっとも変わらないわね!
……で、聞き流すところだったけど、私の名前、ジャマイカじゃないから!
勝手に命名しないでくれるぅっ!
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