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3.同居契約
六畳のワンルームに似つかわしくない、65インチもあるでっかいテレビは、相変わらず、存在感がある。何のために使うのか分からない、小ぶりのツボの豪華な装飾も、そのままである。
私は、鍋パーティをやろうと押し掛けて以来、一年ぶりに青木君の部屋に入った。前に来た時よりも幾分か、片付いている。
「そういえば、何年か前に、脳内転送の法案が可決されて、話題になってましたよね。それなんですかね?」
冷蔵庫から牛乳を取り出して、マグカップに注ぎながら、青木君が独り言のように呟いた。
「にゃおん」(そうよ)
青木君がこちらを向いて、猫語を理解しようとしたのか、少しの間、固まる。
「……いや、でも……。そうは言っても、脳内転送された猫は、家族に引き取られるっていう話じゃないですか。ほとんど報道されないんで、真偽は知らないですけど」
青木君は眉間にしわを寄せて、小さなローテーブルの上に、私のスマートフォンと牛乳の入ったマグカップを置いた。
私は、すかさず前足をテーブルの上に乗せ、マグカップに鼻を寄せて、匂いを嗅ぐ。
「飼い主も決めないで放り出されたなんて、ひどいですよね。制度の不備ですよね……スクープ記事にできますよ」
確かに、そうかもね……。ただ、あの医師も苦汁の決断をしたんだと思うわ。私は、家族と疎遠で、連絡先も知らなかったんだから。
私がぺろぺろと牛乳を舐めていると、向かいに青木君が胡坐をかいた。
「ところで……本当に、須藤さんなんですよね?」
青木君は、口を半分開き、胡散臭そうにひそめた眉の下で、猜疑心で溢れる眼をこちらに向けていた。
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