1.脳内転送

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 病院のベッドの上。私は、一生を終えようとしている。  ヘッドギアから出ている束になった電線は、モニタがついた冷蔵庫のような医療装置を経由して、隣のベッドへと繋がっていた。  隣のベッドでは、麻酔を打たれて、ぐったりとした黒猫が横たわっている。  装着したヘッドギアが、ジャマイカ柄のセーターと良く合っていて、黒猫の寝姿は、奇抜ながらもどこかアンニュイ。まるで、レゲエ音楽のジャケットを飾るモチーフのようにも見えた。  一般的に“脳内転送”と呼ばれている、死に直面した人間の意識の転送は、数年前に法律が制定されて認められた。  ただ、倫理上、意識の転送先は、殺処分の決まった保護ネコに限られている。  また、延命を目的として、臓器提供の系譜上にできた法律であるため、転送元となる人間の方も、救命が絶望的になった臓器提供希望者に限定された。  私は、要件を満たし、意識と、脳内にある全ての記憶を、この猫の脳に転送されるらしい。 「どうせ、殺される運命の猫なんです。情をかける必要なんて、ないですよ。あなたが、このコの体を使って、生かしてあげてください」  医師は、私の意思を確認することなく、脳内転送をしようとしている。もし、聞かれたら、黒猫を憐れんで、私は迷っていただろう。医師は、それを見越してなのか、独り言でも言うように、私の心を揺さぶった。 「須藤さん。せっかく貰えた権利ですし、命を大切にして、生きてください」  医師の瞳が潤んでいる。私に選択の余地を与えないのは、この人の優しさなのかもしれない。 「須藤さん、それでは、始めますよ」    目を閉じると、意識が薄れていく。  私は、猫になる……のか。
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