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♰
数多いるアイドルの中でも、人気絶頂のグループで、センターを務めている三橋コウジが、慌てた様子で駆け出した。
白昼の住宅街で三橋は、走りながらフードを被り、小路に消える。
「ちょ、ちょっと、三橋さんっ! こら、待って! 逃げないで!」
ジャーナリストの私は、ヒールのある靴で三橋を追いかけながら、手帳に走り書きしたメモを読み直した。
「今さら、逃げたって無駄よ! こっちには、証拠があるんですからねっ!」
おおよそ、尻尾は掴めている。これは、芸能界を揺るがす、一大スキャンダルになるに違いない。
「須藤さん、大丈夫ですか? 終わりましたよ」
遠くの方から、男の声が聴こえる。
「無事、成功しましたよ。起き上がれますか?」
見えていたはずの映像が暗がりに消えて、聞き覚えのある声が、年配の医師のものだと気付く。
私は、夢の中にいたのか。
恐る恐る、目を開けてみる。
すると、額の広い白髪の医師の顔が、視界いっぱいに飛び込んできた。
「やあ、大丈夫そうだね。体は動かせるかい?」
ぎょっとして首をすくめた拍子に、隣のベッドに寝ている横顔の美しい女性が目に入る。
私は、そちらのベッドに飛び移り、目を閉じたその女性の顔をのぞき込んで、まじまじと見た。
ショートボブで栗毛色に染めた髪に、夜の街にくり出す時にしていた、鼻筋を通す厚い化粧。
真っ青な顔をしていて、血の気は失せているようだけど、間違いなく、それは……私だった。
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