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もう一度、死体に擦り寄って「にゃあん」と鳴くと、ようやく医師が間違いに気付いた。
そして、死体からスマートフォンを抜き取って、私の着ている服の背中についているポケットに、それを押し込んでくれる。
「そうか、スマホだったか……。役に立つかどうかわからないけど、スマホがあると、安心感は増すもんね。どうか、この先も生き抜いて、また、気が向いたら、顔でも見せてくれないかな」
医師はそう言いながら、あたりめの袋に輪ゴムを巻き、それも背中のポケットに押し込んだ。
あ、あたりめも入れてくれた!? な、なんていい人なの! 女心がわかってるじゃない!
医師は瞳を潤ませて、私の額のたるんだ肉を、ワシワシと撫でる。
(ありがとう。私は、行くわ。猫として、第二の人生……いや、猫生を大切に生きて行くわ)
おでこを合わせていないから、この思いが伝わったかどうかはわからないけど、私は、頭の中で、思いの丈を医師にぶつけて、病室の出口に向かう。
「ああ、そうそう。それは、わたしからのプレゼントだから」
振り返ると、医師が誇らしげな顔をして、仁王立ちしていた。
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