1.脳内転送

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1.脳内転送

 酸素マスクを着けられた私は、ベッドの上で人間としての一生を終えようとしている。  数分前まで、身体のあちこちが痛すぎて、早く死にたいと願いながら、のたうち回ったけど、薬が効いてきたのか、ようやく落ち着いた。  悔しくないかって言われれば、悔しい。だって、昨日まで、こんなふうになるなんて、想像すらしていなかったんだから。  ただ、なぜか、心残りはあっても、誰かを憎むような感情は、湧いてこなかった。  身体中を三十か所以上も刺されたんだから、普通は、襲ってきた人を恨むのでしょうが、そういった感情がまるで無い。  なぜかと言えば、顔がはっきりと見えなかったからかもしれないし、顔を見たとしても、そんな感情は生まれなかったかもしれないし、そもそも見たくなくて顔を背けちゃったからなのかもしれない。  そのうちのどれかも、きっと原因の一部なのだろうけど、それよりも、私の持つ信念の方が、強く影響していた。  ずっと前から、他人のせいにしたり、人を恨んだりすることが、とにかく嫌いだった。  なので、死に直面しても尚、それを貫こうと決めていた。  どこまで、お人好しなんだろう……なんて馬鹿なの……って我ながら思う。  けど、その一方で、それが私らしいってことも、理解しているので、それなら、当然の成り行きだよねってあきらめることができた。 「にゃあ。にゃあ」  猫の鳴き声が聴こえる。  この病室に、のら猫が入ってきたの?  まさか、この病院は最先端の医療をする総合病院のはず。そんなにセキュリティが甘いわけがない。  そんなこと、ありえないでしょ?
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