聖女には選ばれなかったけれど、勇者さまの最愛となりました。

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 季節の変わる頃、ささやかな結婚式が開かれた。辺境領からは神父と辺境伯も参列してくれた。  一方、足の治ったアルベルトは王都で私塾を開いた。勇者の手ほどきを受けたい者が殺到して、それはそれは大層な賑わいをみせたのだった。 ・・・ 「お母さまー! 治してー!」  青い屋根の、小さな家の庭。  色とりどりの花に水をやっていたマリーナめがけて、ふたりの少年が飛び込んできた。  背格好は同じものの、ひとりは黒髪にオレンジ色の瞳。もうひとりは、オレンジ色の髪で、翠色の瞳をしている。  黒髪の少年の右膝は擦り傷で赤くにじんでいた。 「ユーリったら、もう。また転んで擦りむいたの?」 「ごめんなさい。お父さまが稽古をつけてくれるって言うからうれしくって」 「レン。あなたは?」 「僕は大丈夫。だって、僕の方が強いもん」 「なんだって!」  レンに向かってユーリが飛びかかろうとしたとき、低い声が響いた。 「こらこら、ふたりともそれくらいにしておきなさい」  遅れてやってきたアルベルトは、もう足を引きずってはいない。  眉を下げて両手を合わせ、上目遣いでマリーナを見る。 「すまない。勢いあまって」 「程々になさってくださいね? いくら手加減したとしても、アルベルトさまは勇者なんですから」  ユーリの膝からは血が流れている。  マリーナはしゃがんで彼に目線を合わせてにっこりと微笑んだ。そして両手を膝にかざす。 「痛いの痛いの、とんでいけ」  ふわっ。オレンジ色の光が生まれて、ユーリの膝を包み込んだ。
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