聖女には選ばれなかったけれど、勇者さまの最愛となりました。

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 マリーナが肩越しに振り返ると、黒檀のような色をした髪の美丈夫がぎこちなく歩いてくるところだった。  肩幅は広く筋骨隆々としていたが、右手で杖をつき、右足を引きずっている。  白いシャツと黒いスラックスを着こなしている様から、それなりの身分の高さが窺える。革靴も磨かれて上品な光沢を放っていた。  神父が立ち上がり、マリーナの隣に並ぶ。 「マリーナ。紹介します。彼はアルベルトといい、辺境伯の遠縁に当たります。足を痛めていて、療養を目的にしばらくこの街に滞在することになりました。あなたの加護で彼を癒してさしあげるといいでしょう」  えっ、と驚く言葉をマリーナは思いきり飲みこんだ。  当然ながら聞いていない。  しかしマリーナはここの主ではないし、来るものに対して拒むことはない。 「はじめまして、アルベルトさま。わたしはマリーナと申します。どうぞよろしくお願いします」  ぺこり、とアルベルトが頭を下げた。 (翠色の瞳。美しい色だわ。きっと、悪い方ではない)  それがマリーナの、アルベルトに対する第一印象だった。 ・・・  アルベルトは、教会の裏手にある立派な屋敷を借りて生活することになったらしい。  ところが彼は頻繁に教会へ足を運んだ。それは神へ祈りを捧げるためであったり、――マリーナの加護を求めて、だったりした。  教会の前庭には木でできたベンチがある。
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