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スカラベの末路
「お前ここで何してる。早く他と合流してさっさと始めろ」
「おっと、こりゃすまねえ。やっとこれから始められるってとこですよ」
危ねえ、バレるとこだった。しっかしあの小うるさいドイツ人め、こき使いやがって。せっかく見付けた抜け穴の先が気になって仕方ねえってのに、連中とつるんで砂いじりなんてやってられるか。何千年前の棺だなんてどうでもいいっての。どうせ中身は包帯ぐるぐる巻きの萎れた死体だけだ。
俺の目当ては金だ。黄金を独り占めする為に来てるんだ。何でもいい。金細工の壺やら盃やら、なんならフンコロガシの飾りでも何でも。
まぁ、仮にミイラが見付かったとして、そいつが動きでもすりゃ話は別だがそんなもの映画の中でしかありえねえ。是非ともお会いしたいもんだね。
さて、あのドイツ人もどっか行った。また見付からねえうちに俺も仕事しに行くか。
「おい、もしかしてあいつまたどっか行ったか?」
「そういや見ねえな。ったく何が“スカラベ”だよ。あれはただの糞虫だぜ」
「だな」
「どうだ、進んでるか」
「おお、Mr.ザムザ。ボチボチってとこですぜ」
「なるほどいいね。引き続きよろしく頼むよ。何か出たらすぐに報せてくれ」
「報せといえば、またあいつが来てません」
「また? もしかして昨日もいなかったのか?」
「ええ、まぁ……ご存知なかったので?」
「知らない。ついさっきも一人でフラフラしてたからこっちに合流するよう言ったんだが」
「見ての通り、あのフンコロガシ野郎は生まれ変わりでもしない限りこの調子ですぜ」
「ふざけやがって。戻ってきたらクビにしてやる」
「ははっ、ざまあねえな」
着いた。ここだ。昨夜は暗くてこの辺りまでが限界だったが、今日はばっちり準備した。さて、俺を待ってる黄金はどこかなーっと。
おいおい、どこまで続いてるんだこの通路は……。階段もいくつ上り下りしたか覚えてねえ。とはいえほとんど一本道だったから迷子の心配ねえが、問題はこの先に何があるかだ。道中も金目のものは何もありゃしない。うざったい蜘蛛の糸と砂ばっかだ。篝火の痕跡すらなかった。一体ここはなんなんだ……?
しかし曲がりなりにも墓荒らしだ。さすがの俺も興奮してきた。これじゃあまるでインディー・ジョーンズだ。いや、ここはエジプト。それならリック・オコーネルがいいな。
「よおミイラども、いるんだろ!? 現代のオコーネルが来てやったぜ!」
んんー、よく響くな。何もねえ証拠だ。無駄骨にならなきゃいいが。あとはミイラにならねえように、だな。
……ん? 声が響いた。空洞……まさか!
こりゃたまげた。何だここは……。だだっ広い部屋の真ん中に棺が一つだけ……しかもこれは鉄だ。石棺じゃねえ。ピラミッドを建てた奴らとは違う時代の人間が作ったってことか。いいとこ二百年前の代物。ということはこの迷路じみた通路も……。
って何だよ、ここまで来て結局死体かよ。今回も骨折り損だ。くそったれ。
……どうしても手ぶらでは帰りたくねえ。あのアホ面さげた連中に一泡ふかしてやるんだ。俺はお前らビビりとは違う。
ってわけでせっかくだ、開けさせてもらうぜミイラさん。
「よーし、今日は盛大にやるか!」
「おい、誰かジャーマン先生連れてこい! いつまでもオモチャと睨めっこしてねえで一杯やろうぜってよ!」
「呼ばれなくてもこれだけ騒いでいれば嫌でも気になるさ。私にも一杯くれるか」
「おお、もちろんだ! スコッチだがいいか?」
「できればバーボンがよかったが、そうだな……少し、もらおう」
「だっはっは! なんだそりゃ!」
「それじゃ乾杯だぜ! お宝に!」
「……ところであのサボり野郎はいるか?」
「スカラベか? そういやずっとみてないな。どっかでミイラにでもなってんじゃねえか?」
「そうか。それなら奴の分の報酬は君らで山分けしてくれ」
重い物を引き摺る音、鞄のような何かが落ちる音。頭上を照らす冷たく鋭い光。
身体にはボロ布がぐるぐるに巻かれているが劣化が酷く、少し力を入れるとパリパリと剥がれ落ちた。
何だ。何がどうなっている?
恐る恐る身体を起こすと、意味不明でいて全てが理解できる光景を目の当たりにした。それから遅れて、記憶も徐々に鮮明になってゆく。
——名前、名前は……ハンス。ハンス・M・タンクだ。いつだったか、エジプト旅行の最中に俺は攫われた。気付いた時には既に視界を奪われ、身動きも取れないまま……ダメだ、ここから先は思い出したくない。
なるほど。さしずめこいつはミイラ取りってところか。どういう理屈かは知らんが、これを開けたお前が次のミイラに成り代わったと。するとこれは魔法やら呪術の類いか? だとするならまともに考える気にはならないな。
「誰だか知らんが開けてくれて助かった。ついでに着てるものも貰っていくぞ」
こんな鼻も拭けないような包帯だったものだけでは外を歩けん。とはいえこいつの服も大概だな。とにかく汚い。まぁ、棺桶の中に比べれば全てが贅沢に思えるが。
それよりも問題はこの謎の部屋から出られるかどうかだ。ミイラがミイラ取りになって彷徨うなんて笑えない。逆に、無事出られたならこれ以上ない笑い草だな。
「おいお前、道案内できるだけの体力は残ってるか」
「…………」
「あるはずないよな。ミイラには」
せめてもの礼としてきっちり葬ってやろう。今日からここはお前の部屋だ。
「パスポートを」
「ああ」
Name: Haunth・M・Tank
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