4114人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんだ、来たのか?」
「なんだってなに?水槽の魚のお世話に来たんだから!わざわざ!みんな休みでしょ?洋ちゃんこそなんでいるの?」
「当番!帰ってもする事ないしな。来る…思ったし。」
水槽に餌を放り込み、その言葉でくるりと後ろを振り返ると、洋介もくるりと顔を逸らした。
(もう!)
子供扱いなのか遊ばれてるのか分かんない、と膨れながら波打つ水面を見ると、500円玉位の薄いピンク色が見えて、急いで網を海に入れた。
「何しとる?」
「取れた!見てこれ、新種じゃない?」
プラスチックの細長い容器に海の水を入れて、500円玉の大きさの魚を入れると、それを見た洋介はフッと笑った。
「新種なんか簡単には見つからない。それはあれ…仲間だ。」
顎で指された方向を見ると小さな水槽に5匹程同じ魚と思われる物が優雅に泳いでいた。
「なぁんだ。新種なら会社もここに文句言えないのに。でもこの子可愛い。雌かな?雄かな?」
「んーどれ?……雌だな。背鰭が小さい。雄は大きいんだ。ヒラヒラさせて雌を誘惑する為に。後は縄張り争いで戦う為にな。」
少し見てから言うと洋介はまた腕に持っているバインダーを見ながら、水温やらを記入して行く。
「ねぇ、洋ちゃん。水槽に入れたらダメかな?なんかこの子可愛い。形がハートみたい。」
「んー雄じゃないから縄張り争いはしないし、今は繁殖期でもないから大丈夫じゃないかな?入れて様子を見ておいてやるよ。」
「本当?嬉しい!私も見にくるね。」
可愛い魚をゆっくりと蓋を外した水槽に入れる。
「見に来るねって…冬休みは受験勉強だろ?お母さんとこに行かないのか?」
この海洋研究所は製薬会社の持っている一つで、父はここの責任者だが、赤字部署、海の側の研究所は怪しいとさえ言われる始末で研究一筋の父に呆れた母は離婚、その後仕事のパートナーだった男性と再婚し都会で暮らしている。
最初のコメントを投稿しよう!