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「ただの協力者だ。婚約者のフリをしている」
ギルの言葉には感情が無いように感じられた。
「それもバラしちゃうんですか?」
私は無意識に近い感覚で尋ねていた。
——ただのって、言われたし、なんだかな……。別に良いけど……間違ってないし。
なぜか心がモヤモヤする。
「信頼出来る人間しかいないからな」
そう言うギルはなんだか得意げで、ちょっと複雑な気持ちになる。私は一体、何を考えているのだろう。二人だけの秘密が欲しかった、とでも?
「婚約者じゃなかったのか? でも、一緒の部屋に住んで——」
「す、住んでないです」
マーカスが会話に入ってきて、戸惑った赤い瞳で私とギルを交互に見みてきた。だから、私は必死に否定してしまった。
「本当に婚約してないんすかぁ?」
栗色の彼も少し冗談めいた口調で私と私が抱えているギルの尻尾を見て言う。
「そういう約束なんですっ」
パッと私はちょっと乱暴にギルの尻尾を離した。
「片付けがあるので、失礼します」
出来るだけいつも通りの雰囲気で私はカウンターの中に戻った、はず……。
——ああ、もうっ、情緒不安定じゃん、私……!
騎士にからかわれたのが嫌だったのか、それとも、ギルが私のことをただ利用してるみたいな言い方をしたのが気に食わなかったのか、なんで自分がムッとしているのか自分でもよく分からなかった。
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