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そのペンダントの赤い宝石の部分は、ボタンになっている。そのボタンを押せば、自分の好きな姿に変身することができる。ただし、変身できるのは3回まで。
「要するに、あなたの好きな姿でもう一度人生をやり直せる、ということです。素晴らしいでしょう?」
「……そうですね」
現実味がなく、首を傾げながら返事をする。
田中は眉間に皺を寄せて、困ったような顔をした。
「嬉しくありませんか? あなたは随分、外見にコンプレックスをお持ちのようでしたので、こちらを用意して差し上げたのですが」
ペンダントを見つめてもう一度、下唇を噛んだ。
赤い宝石に私の顔が映る。細すぎる一重の目、低くてぺちゃんこの鼻、毛深い眉、ニキビだらけの頬、妙に分厚い唇、野球のベースみたいな輪郭。
そして、どれだけダイエットしても変わらない、樽のような体型。
全てが嫌いだった。ブサイクとか、ブスという言葉は私のためにあるとしか思えない。
「……嬉しいです、ありがとうございます」
ぎゅっとペンダントを握りしめた。これがあれば、こんな見た目とはおさらばできる。
「お気に召していただけたのなら光栄です。そのボタンを使用後、現在の坂下様の肉体はこちらで処理しますので、ご心配なさらず。もし人間になる場合、戸籍や名前などもこちらでご用意いたします」
わかりました、と頷きつつペンダントを首につける。
「あ、そちらのペンダントは、どんな姿になっても他人には見えませんので、ご安心ください」
では良い人生を、と恭しく一礼して指を鳴らす。
途端、天使は煙のように消えていった。
首にかけたペンダントに軽く触れる。
何にでもなれるのならば、やっぱり最初はあの姿に決まっている。
私は期待に胸を膨らませて、ぎゅっと目を瞑りボタンを押した。
真っ白な光が私を包み込んだ。
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