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 どうやら私は死んだらしい。  目を覚ますと、真っ白な何もない世界にいた。目の前には、自らを天使だと名乗る男性が立っている。 「坂下美智さんでお間違いありませんね」  タキシード姿の顔の整った男性は、分厚い本のようなものを見ながらそう言った。身長も高く、サラサラの髪の毛は顔を動かす度に品良く揺れる。その姿に不釣り合いな、ドーナツ状の白い輪が彼の頭の上にぽっかりと浮いている。  美形は天使の輪が頭上に付いていても様になるのか、羨ましい。  そんなことを考えながら、ぼうっと彼を見つめていると、切長の目を本から上げて思い切り睨まれた。 「坂下美智さんで、お間違いありませんね? と先程から何回もお聞きしているのですが。耳が遠くていらっしゃる? それともお話もできないのですか?」  美形のくせに口が悪い。ムッとしながらそうです、と目を逸らして答える。 「承知いたしました。自己紹介が遅れましたが、私は天使の田中と申します」  台本を読み上げるようにスラスラと、彼はそう言った。 「天使なのに田中って名前なんだ」 「便宜上の名前です。本当の名前は人間には発音できません」  くだらないことを聞くな、と言わんばかりの視線をこちらに投げてよこす。 「早速ですが本題に入らせていただきます。坂下美智様、あなたは今生死の境を彷徨っています」 「え、死んでなかったの」 「はい。いちいち話の腰を折らないでいただけます?」 「すみません」  もう何も言うまい、と俯いて下唇を噛んだ。
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