呪われた氷王子との対面

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呪われた氷王子との対面

「お初にお目にかかります、リリアナ・ネル・ シュヴァルツと申します」 そう言って顔を上げると、冷たく見下ろす翡翠色の瞳と目が合った。髪は氷のような水色。 顔立ちは美しい。けれど顔の右半分が火傷で痛々しい姿となっていた。 「どうなっている?」 低い声の殿下に思わずビクッとなる。 「わたしは、エレン・ネル・シュヴァルツと 婚約するのではなかったのか?」 言ってなかったのね……。 チラリとお父様を見る。 「申し訳ありません。エレンは他国に恋人がおります故、このリリアナと婚約をお願いしたく……」 お父様が愛想笑いを浮かべながら言う。 「……他国に恋人か。呪いに侵される前、エレン嬢はわたしを慕っているように見えたが?」 「……それは……」 お父様が口籠る。 「やはり、この呪いでエレン嬢は婚約するのが嫌になったのか……」 レオンハルト殿下が寂しげに笑う。 「いえ、決してそのようなことは……」 お父様が慌てる。 わたしはそんな殿下を見て胸が締め付けられた。 「……いいだろう。リリアナ嬢との婚約を承諾する」 すると、お父様はホッとしたような表情になり、 わたしに『お礼を言え』とアイコンタクト を送ってきた。 「……ありがとうございます。」 「ふつつかな娘ですがどうぞよろしくお願いします」 お父様は深く頭を下げた。 「リリアナ嬢、わたしのことが嫌になったら、婚約解消をしても構わない。」 殿下の言葉にわたしはひどく驚いた。 氷のように冷たい方だと聞いていたのに噂と違う。 まさか婚約解消をしても構わないと仰るなんて 思わなかった。 「いいえ!殿下!リリアナは婚約解消 など致しません!」 お父様の必死な様子に、わたしは邪魔者なのだと あらためて実感させられる。 お義母様と義妹にもいじめられているわたし。 あの家には誰にも必要としてくれる人がいない。 せめて、殿下がわたしを必要としてくれるのなら。 「……その通りです。わたしは婚約解消は致しません。ずっと、あなたのおそばにおります。」 わたしはにっこり笑った。 わたしが笑ったのを初めて見たのだろう。 お父様が驚いたような顔をしていた。 すると、殿下は驚いたように目を見開いた。 「お前は変わっているな。俺のこの姿を見ても 婚約解消をしないと言うのか。」 「ええ、もちろんです。大事なのは中身ですから」 そう言って笑うと 殿下は『面白い奴だ』という風にフッと笑った。 これが、わたしと殿下の出会いだった。
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