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レオンハルトとリリアナ 前編
わたしが正式にレオンハルト殿下の婚約者となって
数日が経った。
殿下の部屋を掃除していると誰かが
入ってきた気配がした。
「……ここで何をしている」
振り向くと殿下が怪訝な顔をして立っていた。
「殿下」
わたしは慌てて立ち上がった。
「それになんだ、その服装は」
不機嫌そうな声にビクッとなった。
わたしの服装は、実家で着ていたお仕着せ姿だ。
「汚れていましたので掃除をしようと思いまして。
ドレスですと汚れてしまいますので、実家から持ってきたお仕着せを着ています。
……不快だったでしょうか? 申し訳ありません」
「なぜ、お前が掃除をする必要がある」
「……実家での癖が出てしまいました、
申し訳ありません」
わたしは俯く。
王太子様の婚約者がこんな雑用するはずがない。
お叱りを受けても当然だ。
「謝る必要は無い。わたしの婚約者にこんなことをさせるとは使用人達は何をしてるんだ」
え? 怒らないの?
「レオンハルト殿下、申し訳ございません。皆によく言っておきます」
側近のような人が深々と頭を下げた。
血のように赤い髪に茶色い瞳の可愛らしい顔立ちをした方だった。
「リリアナお嬢様も申し訳ございません。」
頭を下げる側近の方にわたしは申し訳なくなった。
「いえ!わたしが好きでやったことですから
謝らないでください。掃除も慣れていますし」
殿下の眉がピクリと動く。
「シュヴァルツ伯爵は、娘に掃除をさせているのか」
冷たく怒ったような声。
まずい。このままではお父様が罰せられてしまう。
「い、いえ!お父様ではなく」
そこまで言ってハッとした。
義母や義妹の名前を出せば彼女たちが
罰せられるだろう。
口を閉ざすも、遅かった。
「伯爵ではない?まさか、
義母にいじめられているのか」
殿下の察しの良さにわたしは頭を抱えた。
殿下と顔合わせの日、義母と義妹がいると
伝えていたのだ。
「ここのところ毎日登城しているだろう。家に居場所がないのではないか?」
鋭いところを突かれた。
でも、殿下には話したくなった。
「実は、そうなのです。」
「やはりか」
認めると殿下は苦しそうな表情を浮かべた。
「わたしはお義母様と妹にいじめられています。恐らく、わたしが前妻の子だからでしょう。父は見て見ぬふりをして、助けてはくれませんでした。誰もわたしのことを必要としていないのだと、わたしは自ら死ぬことを選ぼうとしました。だけど殿下に出会い、必要としてくれるのなら生きている意味がある。そう考えたのです。殿下、わたしを必要としてくれますか?」
驚くほどに言葉がスラスラ出てくる。
殿下はしばらく言葉を失っていたが
「そうか、辛かったな」
と自分も傷ついたような顔をした。
なぜ、そんな顔をするのですか。
あなたは氷王子ではないの?
その優しさに涙が零れそうになった。
「……はい……辛かったです……」
突然、殿下に抱きしめられた。
「泣くな。これからはわたしがいる。お前のことはわたしが守ろう。だから、わたしのそばにいて欲しい。」
誰かに必要とされている。
それだけで心が温かくなった。
「はい」
わたしは泣きながら頷いた。
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