November

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海の前の家がいいと思っていたが家は持たなかった だから死ぬ間際、海は夢にあらわれる 海底に白くて大きな氷が沈んだ海 あまり深くないよ、だから余計に怖いね 幼い姿の弟が浮橋から海に滑り落ちた 彼は私の夢でよく死んだ 首を吊り魔女に食われ迷子になり事故により たぷたぷとうねる海面を見つめる 警察官がたくさん来たので証拠のグラスを手に逃げた 給湯室のシンクに中身のビールを捨てた 一口も飲んでねえの。理不尽だよねー 誰かのために誰かのためにって ビルの廊下はいつのまにか薄暗い 死ぬ間際なのだ、帰らなければいけない 努めて冷静に鞄の中に手を入れる 航空券か切符かパスポートか でも私は特に何も持たなかった これからも(死んでからも)持つことはないだろ それが事実だ 海が見たいと心の底から努めて冷静にお祈りする。
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