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番外編 大学三年生 三田村編
なんだあれは。
格好良かった?たいして格好良くなかったよね。
三田村は帰りの電車でつり革に掴まりながら考えていた。
大学に寄った帰途は暗く、窓には自分の姿が時折写っては、消えた。
俺、顔は悪くないんだけどさ。
チビで三流大学、特技もなくて、運動ができるわけでもない。
口は悪いし、もちろん、性格も良くない。チビでも素直で明るかったら、周りの受けもいいのかもしれないけど。
自己分析の結果は散々で、特にやりたい仕事もない。それに、今とたいして身長の変わらなかった中学の頃から抱える秘密も厄介だ。
来年からの就職活動は気が重い。
一つだけ、良い所はあるな。悪い所だけど。思ったことをすぐに口にするところ。我慢しようとか思わないんだ。だって、はっきりしないとなんでも気持ち悪いだろ。だから、新入社員なんて正直、なりたくない。
オキャクサマ相手なんて、最も向いてない職業だろう。
誰からも生意気だって言われて、煙たがられるに決まってる。
俺は俺の好きなように生きたい。
旅にでも出るか。
三田村はふるふると頭を振り、リクルートスーツのポケットに入れた名刺を取り出す。
柏木さんね…。
一体なにをしでかして、降格になるんだか。
こんな安易な理由で就職先を決めるなんて間違ってる。
ポケットに名刺をしまい。そのまま手の平で転がす。
少し電車が揺れて、つり革をぐっと掴み直す。
受けて、受かるかもわからないよね。
ならさ、受けるのはタダだ。
ただ、会社案内に載るあの男はなーんか、気に食わないな。なんだよ、あの柏木さんの感じ。友達なのかな。やけに褒めちゃって、気分が悪い。
とりあえず、今度この「本店」とやらを見に行こう。
三田村はつり革を握っていない、絡め返された指を見た。
本当に仲間だったら?もしかして僕に何かが訪れるチャンスがあるなら、これは奇跡の始まりだ。
たいして格好良くないのに、やけにいい男に見えてしまうなんて。不思議なもんだと三田村は思った。
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