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「ありがとうございました。ここのところ、お騒がせして、申し訳ありませんでした。」
ちょうどチラシの終わりが見えた頃、話も尽きた。俺の謎解きは終わった。
「柏木さんは特徴的な車に乗ってるのが、仇になりましたね。スゲちゃんは執拗な男なので、帰る時に気を付けて。あと、マスターズを辞めたら、僕がK・O!の中途採用に推薦してあげるから。心配しないで。」
辞める?俺がと最後のチラシを重ねながら目で訴えると。
「それくらいの覚悟を決めても、次があるよってこと。あとね、柏木さんの次の恋人は良いも悪いも全部言ってくれる人がいいね。」
何を言うかと俺は少し高頭を睨む。
「ほらそれ、君は向井君に甘やかされ過ぎて、自分に言葉が足りないのを忘れてしまっている。誰か、思い出させてくれるような人に出会えるといいね。いつもきっちりしてる髪を振り乱してまで、マスターズを守りたいって思ったこと、言葉にできるといいんだけど。」
高頭は俺の髪をかき上げたり、撫でたりしながら手櫛で髪を整えてくれた。そんなになっているとは気付いていなかった。
「仕事柄、話せないことも多いのかな。」
青い車の前で待つ男は、一見するとこれの持ち主のようだった。ニコニコとしながら俺に近づいて来て低い声で「もう、ここには来るんじゃないぞ。」と脅す様は、パワハラを通り越して犯罪者の一歩手前だ。
「すいません。もう来ません。高頭さんとは仕事の話をしていただけです。」
俺は努めて冷静に、低く、小さい声で返した。こんなところでスーツの男が2人、大声で喧嘩でもしたら警察が来る。
「僕をどかしておいて?そんなに重要な話だったのかな?柏木課長補佐?」
とりあえず、車、乗りませんかと促す。菅はしぶしぶといった様子で助手席に乗り、鹿山と同じようにパタと控えめにドアを閉めた。この車は人をそんな気持ちにさせるのだろうか。
「本当にすみません。菅さんをどかしてまで高頭さんとお話しして。ちゃんと理由があるんです。全ては俺の誤解でした。恥ずかしい話ですけど、聞いてもらえますか?」
いいけどぉとまだ怒りの収まらない菅は車の天井を見ている。
俺は、人から高頭が何者なのか調べたいと言われたところから、先程の本社店での菅と向井の話を聞いて2人がK・O!のスパイでマスターズが買収されるのではと誤解したところまでを菅に全て話した。鹿山のことは伏せた。これは人に知られていいものではないからだ。
「柏木さんも、いい具合に出来上がってきたね。」
2人がスパイと誤解したと話す辺りから、菅はくくくと笑い続けていた。
「マスターズが買収されるかもと思った時、俺はマスターズを守りたいと思いました。それを止めようと思ってここに来たんです。高頭さんに下心があって来たわけじゃありません。それは、わかってください。」
わかった、わかったと言いながら菅はまだ笑っている。
「菅さん、俺、本気なんです。」
菅がこちらに振り向いた。
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