5.採用活動に正解はない

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 12時の大型催事スペースは今日は各社のブースで仕切られている。何もないそこを、採用担当者が短時間で自社の色に塗り固めていく様子を柏木はマスターズのブースから眺めていた。  大学卒業の就職活動の解禁は3年生の3月と決められているが、その前に企業研究をしましょうという名目で合同の会社説明会が度々行われる。  マスターズも例に漏れず、これに参加するが、スーパーとしては小規模な分、学生からの関心も薄い。  社用車でこちらに向かう途中、同期ゼロの主任にどうしてここに入ったのと聞くと、小売り希望でオイデヨーからも内定もらったんですけど、こっちの方が気楽そうだったんで。と呑気な答えが返ってきた。  私、学歴は良くないですけど、マスターズってみんな同じようじゃないですか。学歴を自慢する人がいないのがいいです。給料は良くないですけど、ボーナスも出るし、平日休みも、盆暮れ休めないのも慣れました。むしろ気に入ってます。  俺はあそこの出身だけど。と聞けないだろうから出身の大学を教えると。それは、と驚かれる。失礼ですけど、その大学出身でも青いあの車に乗れるよって学生さんに言ってあげるべきです。夢がありますね。と素直に驚いている。  なに言ってんの、独身貴族が無理して買ったんだから。と笑う。こんな考えの社員だから、残っていられるのか、同じような考えの者が集まっているから、それに添えない者は辞めていくのか。  いい学生とはなんだろうと、採用活動をする度に考える。今でも残る同期は、まあ、悪くないと折り合いをつけてマスターズに勤め続けている。口に出さないまでも会社のために自分が出来る仕事をやっている。  やる気に満ち溢れていなくてもいい。ただ、マスターズでいいよと思う人と一緒に働きたい。  そんな者がマスターズを支える社員に化けていくのだ。  俺はマスターズのブースに看板とポスターを貼り付け、ラックとテーブルに会社案内を並べる。学生が集まったら会社説明の時間を設けようと打合せをして、主任と役割を確認する。  今回の会社案内は、会社の方向性が変わるかはまだ検討中のため、大きな刷新は出来なかった。今までと内容は同じだが、会社案内からして地味と言われないように毎年更新するようにしていた。  しかし、今年のはすごくいい。菅の推薦で向井が載っているんだ。    爽やかな笑顔の写真が一枚。トマトを並べる写真が一枚。特にトマトのは良く笑っていて、えくぼが見えて、すごくいい。ちょっと小さいのが難点だけど。  開場して学生が一斉に入場してくる、大きな波が散らばり、目的の企業に学生達が集まる。そこからまた散らばったのをマスターズはゆっくりと集めればいい。
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