5.採用活動に正解はない

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「スーパーって面白いんですか?」  声がしたが、姿が見つからず、俺はキョロキョロと周りを見回す。 「ひどいな、ここですよ。ここ。それ、ネタですか?」  反対方向を見ると、小柄な学生がこちらを鋭い目で見ていた。  俺より20センチ、もっと低いかな?つい屈んで対応しようとするのを、そういうのいいですからと再び睨まれる。  生意気な学生。こういうのはお客に頭を下げられない。こちらからも願い下げだ。 「向き、不向きがあるかな。」 「どんな人が向いてるんですか?あなたは、向いてるんですか?」 「素直で、人の話がよく聞ける人が向いてます。相手はお客様ですから。お話をよく聞いて、気持ち良くありがとうございますと言える姿勢が求められますね。私は、どうかな、向いてるから続いてるんじゃないかな。」 「あなた、素直で人の話を聞くようには見えないけど。性格悪そうだし。」  おいおい、君はなにを言ってるんだね。仮にも採用担当だよ。第一印象が大事とか大学の就活講座で習わなかったのかな。  受ける気もない冷やかしなのだろうけれど。面白い奴だと思った。 「気になるなら、説明を聞いて行くといいですよ。あと…」 「あと?」 「この会社案内に載ってる人を見に来るといい。自分の理想とするスーパーマーケットの店員になるため、日々働いている人だから。」 「理想?スーパーマーケットの店員?そんなの、誰でもできるじゃないですか。バイトだってできる。」 「そうじゃないってことが、わかるから。」  これ、あげるよ。俺は名刺を渡した。 「柏木課長補佐…」 「あ、来月からチーフだから。」 「なにそれ、降格ってやつですか。問題起こしたんだ。あんた信用できないな。」  返す言葉がなく、俺は咳ばらいをしてその質問は聞かないふりをする。 「最初の質問に答えますけど、スーパーは面白い仕事です。でもそれがわかるのは、限られた人間だけかもしれない。」 「すごい過剰表現ですね。」 「その限られた人間に、なりたいと思いませんか?」  俺は久しぶりに笑った。さっぱりとして気持ち良かった。 「面白い仕事をさせてくれるんですか?」 「違うな、仕事を面白くするのは自分だよ。面白い仕事はないな。会社は長く勤めてほしいから、仕事の手助けはするけど。正直、ほとんどの上司は導いてくれない。少し時間がかかるけど、面白さを手にした時の喜びは大きい。ただし、社内のルールは守らなくてはいけませんが。」  そうですか。と小柄な学生は俺に少し近づき、自分の指を俺の指につっと絡ませながら、小声で下から囁いた。 「働くなら、仲間がいるところがいいなと、思ってたんです。」  俺は学生を上から見下ろし、絡んだ指に自分の指をほんの少しだけ、絡ませて大事なことを囁く。 「言っておくけど、ここは給料は良くないし、土日休み、連休なし、盆暮れは仕事だ。それでもいいなら、待ってるよ。再来年。きっと面白い会社になる。本当は内緒なんだけど。」  学生は、睨むようにこちらを見て笑い、なんだ、あんた。と呟いて。  会社案内を手にして人混みに消えて行った。  面白い奴。もう会わないだろうけど。
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