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姉さんの風邪は、かなりひどかった。
倒れてからすぐの土日は、起き上がるのもつらそうだった。
休み明け、すぐにじいさんが病院に連れていった。
医者が言うにはただの風邪だったようで、ひとまずはほっとしたけれど。
それでも長いこと、高熱が続いた。
隣の部屋からコンコンと咳の音がするたび、胸が痛んだ。
水分を摂るときも、何かを飲み込むたびにのどが痛むらしく、つらそうに表情をゆがめていた。
食事は、ミルクプリンやアイスクリームを食べるのがやっとだったから、ここ数日でみるみる痩せていった。いつもの優しい澄んだ声も、かすれて弱々しい。
れんげ荘のメンバーとの食事は、しばらくお休みになった。
だけどみんな、何かしら家に来て、世話を焼いてくれていた。
光さんや芙美花は、そろってお見舞いの品を持ってきてくれた。
ただ、バニラアイスのファミリーパックがみっつも入っていたのには驚いた。そんなに要らないぞ。
しかも、「バニラだけじゃ飽きるでしょ?」なんて芙美花が言い出したらしく、いちごのカップアイスもおまけされていたし。
そのことを姉さんに話すと、つらそうな表情がふわりと和らいだ。
……あと、おれ達ふたりのためにお惣菜を買ってきてくれていた。至れり尽くせりだなあ。
麻奈ねえは姉さんがパジャマを着替えたり、体をふいたりするのを助けてくれた。
受験生で大事な時期の麻奈ねえに面倒をかけていること、姉さんは申し訳なさそうにしていた。
でも麻奈ねえは明るく笑い飛ばし、姉さんの肩に優しく触れた。
そして、「いつもご飯の面倒を見てもらってるんだから、これくらい恩返しさせてよ」と、温かい声で言うのだった。
姉さんの介抱をしているあいだはちゃんとマスクをしていたし、最近は体調管理を万全にしているらしい。……頼もしい。
*
倒れて五日が経つと、ようやく少し楽になってきたようだ。
食欲も戻ってきたと言うので、ほうれん草と卵の雑炊を作ることに。
「しずぅ~、ただいま~」
「ただいま~!」
じいさん……と、芙美花の声?
振り返ると、手提げかばんを提げた芙美花と、その後ろでニコニコ笑うじいさんがいた。
じいさんはさっき、おれ達ふたりの晩ごはんを買いに出かけたばかりだ。ずいぶん帰りが早いんだなと不思議に思っていると、芙美花が「じゃーん!」と、手提げかばんから何かを取り出した。
ラップにくるまれた……これは、サンドイッチ?
「今日はね、芙美花、サンドイッチ作ってみたの。いっぱい作ったから、麻奈お姉ちゃんと、日渡さんちにもおすそわけ!」
「……あー、そういうことか」
中身を見てみると、たまごサンドとコロッケサンド、ハムとチーズサンドイッチの三種類だった。
分厚い食パンで作ったようで、食べ応えがありそうだ。「コロッケはお惣菜のだよ」なんて芙美花は情けなさそうに眉を下げて笑ったけど、充分すごいと思う。
「買い物に行こうと思ったら、芙美花ちゃんが持ってきてくれたんじゃよぅ。でーれー立派になったもんじゃなぁ」
じいさんがニコニコしながら、芙美花の頭を撫でる。
おれも芙美花に「ありがとう」と声をかける。嬉しそうににへっと笑う芙美花だったが、ふいに寂しそうに瞳を伏せた。
「……お姉ちゃん、まだ良くならない?」
……そりゃあ、寂しいよな。
芙美花はずいぶん姉さんに懐いているのに、この五日間、顔すら見ていないんだ。
おれが、「まだ微熱があるし、寝てた方がいいだろうな」と正直に話す。
芙美花はぎこちなく微笑んで、「わかった」とうなずいた。
「……芙美花」
声をかけながら、おれは台所に向かう。
きょとんとする彼女を振り返って、こう提案した。
「おれ、これから雑炊作るんだけど。……一緒に、どう?」
すると、芙美花の表情が明るくなった。並んで台所に立つおれ達を、じいさんは優しい目で見守ってくれてた。
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