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第29話:消えないよ
芙美花とともに作った、ほうれん草と卵の雑炊。
卵を入れてから火を通しすぎてしまって、白身が固まってしまった。
だけど、味は悪くない……と、思う。
水が入ったボトルとともに、姉さんの部屋に運ぶ。
ドアを開けて中に入ると、姉さんがこっちを振り返った。
「ああ、しず。ありがとう」
その声はまだかすれているけれど、数日前のようなガラガラとした感じはない。
ほっとしながら、姉さんのいるベッドに近づく。
上体を起こしていた姉さんは、窓の外をのぞいていたようだ。
見てみれば、芙美花がれんげ荘へ、元気よく駆けているところだった。
さっきまで、窓越しに手を振っていたのかもしれない。
それまでは起き上がる余裕すらなかった姉さんだけど、やっとお互い、顔を見られたのかな。
そう思うと、ちょっと安心した。
「……暖房、つける?」
日が傾きはじめ、寒くなってきた。
ベッドには掛け布団と毛布が重ねられ、姉さん自身もあたたかそうなパジャマを着ているけれど……。
心配するおれに、姉さんはふるりと首を振った。
「のどを痛めそうだから……」
「ああ、そっか……。ならこれ、お湯入れ替えてくるよ」
と、姉さんの腰元にあった湯たんぽを手に取り、忘れないようにテーブルの上に置いた。
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