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おれが作った雑炊を、姉さんは少しずつだけど、残さず食べてくれた。
「おいしいねぇ」と幸せそうに笑う姉さん。
……その手首が、以前より細くなってしまった気がする。
風邪が治ったら、もっと美味しいものをいっぱい食べてもらわないと。
まだ、姉さんの誕生日パーティーも決行できていないのだから……。
食事を終え、病院から処方された薬を服用する姉さん。粉薬だから、ちょっと飲みづらそうだ。
その様子を見守っていたおれは、ふと机の上に置かれている書類に気づく。
先日見た、『進路希望調査票』だった。
あれ以降姉さんは学校に行けていないので、提出できずにいるようだ。
「…………。姉さん、これ……」
勇気を出して書類を手にし、姉さんに見せる。
すると姉さんは、小さく微笑んだ。ちょっと恥ずかしそうに肩をすくめて、
「私が進路に悩んでいること、しずはもう知ってるのよね?」
と、聞いてくる。
おれはうなずいた。続きをうながすように姉さんを見ると、柔らかなまなざしを、自分の膝元に落とす。
「このあいだ、私……”星が見えなくなるのが怖い”って、言ったよね」
「……うん」
あの日、幼い少女のように泣いていた姉さん。
大切な仲間達――姉さんの周りにキラキラ輝く、”お星さま”。
だけどその輝きは、永遠に続くものじゃない。
もうすぐ、離れていってしまう……。
「あのね……私、どんなにつらくっても、”みんながいたから”頑張れたの。学校でいじめられても、お父さんとお母さんが死んじゃっても、……足のリハビリだって……。大好きな人達がそばにいてくれたから、乗り越えられた」
姉さんの話を聞きながら、ふと、あるものを見つけた。
部屋の窓辺に、杖が立てかけられている。
シンプルな杖だけど、持ち手のところに青いリボンが結われていた。
それは、三年前の交通事故以来――足を大怪我した姉さんが、リハビリのために使っていたものだ。
この杖を見ていると、姉さんが一生懸命、ケガを治そうと頑張っていたのを思い出す。
きっと波乱が多かったであろう、十六年の人生。
それでも、過去の姉さんを思い返すと……頭に浮かんでくるのは、笑顔ばっかりだった。
どんなにつらいことがあっても、微笑みを絶やさなかった人だから。
でも、本当は……姉さんはきっと、とても寂しがり屋なんだ。
しなやかで強い笑顔の奥には――もろく傷つきやすい心が、眠っていたんだ。
「ふふ……ダメだねぇ、私。この先ひとりになるんだと思うと、すっかり怖くなっちゃうの。大人になるって、いずれは自立するんだってこと。当たり前のことなのに」
そう言いながら、姉さんは小さく微笑んだ。
……”おれと、じいさんがいるだろ”。
その言葉が口を突いて出かけて……気づいた。
れんげ荘のメンバーや友達はともかく、おれ達家族は、すぐに離ればなれになるわけじゃない。
でも、三人での暮らしだって、限りあるものなんだ。
おれだって、いずれは自分の将来を選ばなくてはいけない。じいさんはもう、高齢なのだから……おれ達よりも早く、天寿を全うするだろう。
”この先ずっと、一人にならない”なんて……保証、できない。
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