第34話:大切な日々

1/2
前へ
/83ページ
次へ

第34話:大切な日々

「ごちそうさまでした!」  食事を終えて、みんなで手を合わせる。七人分の声が、きれいに重なった。  お皿洗いを協力してすませて、テーブルもきれいに片付ける。  それから、それぞれ温かい飲み物を用意した。  おれとじいさんは玄米茶、光さんと芙美花と麻奈ねえはココア。  姉さんは紅茶で、草一郎はコーヒー。  マグカップから柔らかな湯気が立ちのぼるなか、いよいよケーキの出番だった。  草一郎が持ってきてくれた箱の中身は、シフォンケーキだった。  ふんわりと焼き上がった、素朴なきつね色。  一般的なバースデーケーキに比べればシンプルすぎるそれに、れんげ荘のメンバーたちは拍子抜けしたようだったけれど。 「……かずの誕生日ケーキは、いつもこれじゃったな」  じいさんがぽつんと、懐かしそうにつぶやく。 「志織ちゃんと初枝ちゃんがこのキッチンで、毎年、焼いてあげようたなぁ……」  と、柔らかく目を細める。 「……じゃあお姉ちゃんにとって、思い出のケーキ、なんだね」  さっきまで目を丸くしていた芙美花だったけれど、今はもう納得したようだ。優しく微笑んで、姉さんを見つめている。 「……うん。私、小さい頃はあんまり生クリームが食べられなくって。ケーキ屋さんのものはほとんどダメだったの。だから、ふたりが作ってくれたんだよ」  姉さんがはにかみながら、シフォンケーキを見つめていた。 「ん~、愛だねぇ!」 「ケーキ屋さんのもきれいだけど、お母さんとおばあちゃんの手作りもあこがれるな~」  麻奈ねえと芙美花が、それぞれ羨ましそうに声を上げている。  光さんもうんうんとうなずいてから、 「じゃあこれは、初枝おばあちゃんが作ってくれたの?」  と、草一郎に尋ねる。草一郎は首を振って、 「いえ、……俺としずが、作りました」 「えっ?」  芙美花が目を丸くして、草一郎とおれを見る。  おれは照れくさくってうつむいてしまった。  ふたりでコーヒーを飲んだあと、初枝ばあちゃんの家で試作をした。  そして昨日、もう一度ばあちゃん家に訪ねて、このケーキを焼いたんだ。  本番は草一郎の部屋でもよかったんだけど、オーブンがなかったから仕方がない。  ドーナツみたいな型に生地を流し入れるときは、上手く焼き上がるか不安でドキドキした。  オーブンで加熱しているあいだは、何度ものぞき込んで。  無事にできあがったときは、すごく嬉しくて。  姉さんがどれだけ喜んでくれるか想像したら、早く見せたくて仕方なかった。 「…………」  姉さんはシフォンケーキをじっと見つめたまま、瞳を揺らしている。  薄紅色に染まったほおは、嬉しさと感動が表れているんだろうか。 「……和紗。初枝ばあちゃんからも、プレゼントがあるよ」  草一郎がそう言いながら、姉さんに封筒を見せた。  おれ達の試作を見守りながら、バースデーカードを用意していたんだ。 「俺に読みあげてほしいって言ってたんだけど、……いい?」  姉さんがうなずくのを確認してから、草一郎が封筒からカードを取り出す。  絵本みたいなタッチで描かれた、たくさんの花。「HAPPY BIRTHDAY」というロゴもおしゃれな、そのカード。  草一郎の低く落ち着いた声で、初枝ばあちゃんの想いが言葉になっていく。 『和紗、誕生日おめでとう。  あっという間に、もう17歳ですね。  いつも優しい笑顔で周りを思いやってくれるあなたは、おばあちゃんの自慢です。  きっと志織や彰人さんも、私と同じ気持ちでいるはずです。  あなたの人生には、つらいことがたくさんあったでしょう。  傷ついて泣いていたあなたも、  それでも必死で乗り越えてきたあなたも、  おばあちゃんはよく知っているつもりです。  だから今、あなたのためにケーキを焼いている草一郎くんやしずを見ていると、嬉しくて涙が出そう。  本当によかったね。  おばあちゃんはずっと、あなたの幸せを願っていますよ。  同じ気持ちでいる人が、周りにもたくさんいるはず。  誇りを持って、これからもあなたらしく歩んでいってください。』  読み終えた草一郎が、姉さんに向けて微笑んだ。  それを合図に、みんなで拍手をする。 「……っ」  姉さんは口元を両手でおおいながら、ぺこんっと頭を下げた。  ありがとう、と精一杯伝えているようだった。  草一郎はそんな姉さんを、温かく見守っていたけれど……。 「おらっ、このキザ野郎っ!」  麻奈ねえがいきなりその肩をつかみ、椅子に座らせた。  その隣にはじいさんがいて、梅酒の瓶を持っている。 「今日はお前の誕生日会でもあるんだって、忘れてないっ? かっこつけやがって!」 「草一郎、今日で成人じゃろう~? はじめてのお酒、れっつとらいじゃ~!」  その梅酒はじいさんお気に入りのものだ。 「草一郎と飲める日を、楽しみに待っとったんじゃで~!」と言いながら、グラスに注いでいく。  光さんが「いきなりロックは危ないですよ! 水か何かで割らないと!」とあわてて駆け寄った。  三人が草一郎の周りをうろちょろしたり、わいわい騒いだり。  草一郎は呆れたように目を細めていたが、やがて、堪えきれないとばかりに笑いだした。  明るくて、いつもより無邪気な笑顔。  はじめて見る表情が、とてもまぶしかった。

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加
広告非表示!エブリスタEXはこちら>>