あなたを盗んで

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 それをすると嫌われてしまうことをはっきりと理解したのは、小学1年生の冬だった。  昼休み、担任の先生がクラスの女の子と男の子を数人、自分の席で泣いている北園の前に集めて、「どうして北園さんを仲間に入れないの?」と聞いた。 「だってヘンだから」 「とっちゃうから」 「ぬすむんだもん」 「あげてないのに」  クラスメイトたちは小石が湖面に波を生むように言った。 「本当?」と、先生は尋ねた。  北園は混乱して、悲しくて恥ずかしく、しかしどこか腹立たしくもあって、なんとか声を絞り出した。  ―――もっててねって言われた。  ウソだウソつきドロボーだとクラスメイトたちは大きな波を生んだ。 「人の物を取ってはいけません。借りたい時、欲しい時はまず聞きなさい。まだ持ってるなら明日全部みんなに返しなさい。仲直りはそれから」  先生は北園に言った。  北園はいっそう混乱した。  自分が悪いのはわかっているのに、裏切られたような気持ちだった。  息のしかたを忘れて体が熱くなり、頭がぼーっとなった。  こうなるのは初めてではなかった。友達だと思っていたゆめちゃんに怒られた時にも、保育園でも何回かこうなった。  気付けば保健室に駆け込んでいた。  今日は早退しようかと先生たちが言って、迎えに来た母と歩いて帰った。 「どうせ要らない物なのにね…ちっちゃなことで騒ぐんだから…明日ごめんなさいしなさいね」  母にも言われた通りに、北園は自室の宝箱にしまってある大切な物たちを、次の日には学校へ持っていった。  宝物はクラスメイトたちの元に戻った。  しかしそれは元々どれも壊れたり汚れたりしていた物で、「なんかきもちわるい」「もういらない」と、次々にゴミ箱へ入れられてしまった。  仲直りはあまりうまくいかなかった。
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