もう少しだけ早く

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「お前は悪くない。悪いのは、全部俺だ」  水掛け論になりそうだったが、俺ははっきりと言った。 「俺が珠美を突然誘ったのがいけないんだ。珠美は忙しかったのに、無理をしてくれたんだ」  俺は珠美の夜空みたいな瞳を見つめた。 「あの日、俺は兄貴からこの場所のことを聞いた。それで、俺がどうしても行きたくなってしまったんだ。それこそ放課後にでも」 「……綺麗よね」  珠美は音も立てずに星空を見上げた。鼻筋の高い横顔が俺の目に映る。 「こんなに綺麗な場所なんだもの。圭吾が行きたくてたまらなくなってしまったのも分かるわ」 「ついでに俺は、前の日に友達とウケ狙いで買った石を、珠美に見せびらかしたかったんだ。だから、ここに珠美を誘った。珠美が委員の仕事で忙しかったにも関わらず」 「幽霊と話せる石……ね」  そう言って珠美は俺の足元を見た。そこには深緑の小さくて丸い石が置いてあった。そう、これは俺が、いかにも怪しげな露店で三百円で買ったものだった。大金のものじゃないのでネタにぴったりだと思ったのだ。  ただしこの石は嘘ネタではなく本物だった。それは、今俺が珠美と会話をしているという事実で実証済みである。 「俺が、珠美を誘わなければよかったんだ。珠美が忙しいの、分かってたのに……。全ての原因がそれだ。俺が誘わなければ、珠美は……」 「違うわ。私、そんなに委員が忙しかったわけじゃなかった」  全体の会話において何度目かの否定。互いが互いを否定していく。相手を肯定するための否定だ。 「誘われて本当に嬉しかったの。それで浮かれたのか、普段はやらないようなミスを連発……。委員の仕事を終えるのが遅くなって、他に色々支度をしていたら、結局夜の待ち合わせに遅れた。……私がきちんと間に合っていれば、建築現場の柱がこっちに倒れてきた時刻ごろには、私たちは目的地……この高台に向かっている最中で、現場にはいないはずだったの。つまり、事故には巻き込まれなかった」 「遅れたと言っても、たかだか数分だ。珠美が待ち合わせ時間ぴったりに来ようが、多分俺は待ち合わせ場所にいたと思う。結局、事故に巻き込まれる運命だったんだ。だから、原因は俺」 「やめてよっ」  突然、珠美が喚いた。心の乱れを一気に解き放つかのように、鋭く言った。 「私のせいだって、言ってるじゃない! いい加減、私を憎んでよ! そうしてくれないと、私は解放されない気がするの! あの悪夢から……」  痙攣するように肩を震わせた後、珠美は、ぐっと俺に顔を寄せた。 「目の前で、あの悪夢から!」
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