恋愛って・・・。

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恋の川を泳ぎ、愛の海を漂う。 私の名前は綾小路亮。私の人生は、恋愛のことを抜きには語れ ない。よく女性との接し方がわからないという声を聞く。私か ら言わせてもらうと難しく考え過ぎだ。肩肘張らずに自然体で 接すればそれでよい。つけくわえるなら、その女性との思い出 をどこまで覚えているか。あのときはこうだったね、先日は楽 しかったねという話題。これでもう決まりなのである。つまり 「記憶」の問題なのだ。  まず、大切なのは第一印象。女性の目をしっかりと見る。こ れで女性のハートを掴む。  次に、ウイットに富んだトークだろう。髪型や服装をほめ たら、心地よい話題を交えて楽しく会話。これで女性の記憶 に私のことが刻まれる。  そして、次に会ったとき、あの時は面白かったねと明るく トークを始めればよい。これで女性の心は私のそばに寄り 添ったようなものである。  いままでにお付き合いした女性は数知れず。いっしょに 朝を迎えた女性は何人だろう。記憶をたどっても、もう人 数はわからない。最初のデートはカフェか映画かショッピ ング。慣れたらちょっとしたスポットへ。お台場、浅草、 スカイツリーでいいだろう。親しくなったところで遠出 する。鎌倉、江の島、伊豆、箱根、御殿場、富士山、河 口湖。この辺りのオシャレなホテルをリザーブしたなら もう決まりだ。 先日も、麻衣とドライブをしながら盛り上がる。 「この前いっしょに行った東京タワーは楽しかったね」 私が記憶を頼りに話題を出した。 「私、東京タワーに行ったことない」 ちょっぴり、麻衣は怒ってしまった。 「あ、そうだったね。今度いっしょに行こうね」 さりげなくカバーしておけば大丈夫だ。  昨年、優香とデートに行った。 「あの時の鎌倉の海は綺麗だったよね」 懐かしい二人の思い出を語ろうとした。 「家族としか鎌倉には行ってないよ」 優香もご機嫌ななめになりそうだった。 「そうだっけ。優香のことが好き過ぎて、ぼくの頭の中で 一緒に行った夢を見たんだよ」 ここまでフォローできれば上級者。  何年か前のこと。奈美と飛行機に乗った時、 「あ、富士山が見えるよ。富士山の五合目までいたときは 曇っていて、残念だったよね。今度こそ天気がいい日に行 こうね」 次の旅行につなげようとした。 「奈美は富士山に登ったこともないし、山登りなんか疲れ るから嫌い」 バッサリ断言されたこともある。 「そうだよね。山登りは危険だ。毎年あちこちの山で遭難 する人が出ているし」 相手に同調しつつ、話をすり替える技術も重要だ。  じつは、そんなお付き合いばかりをしてきた。今、彼女は いない。つきあっても、つきあっても長続きしない。そろそろ 三十代も半ばとなり、真剣に結婚を考えたとき周りには誰もい なかった。同級生や知り合いもみんなお嫁にいっている。この まま独身で一生を終えるのか。独り身のまま朽ち果てていくのか。  そんなことを考えながら一人さみしく歩いていた。向こうから 歩いてきた女性から 「あら、亮君。元気?」 声をかけられた。 「はあ、元気だけど」 誰だろうと、適当に調子をあわせて返事をしておいた。 「忘れちゃったの。私よ私。和子。小学校のとき、同じクラス だったでしょ」 といいながら、バシバシと私の腕をたたき続ける。 あんまり記憶にないが。そういえばいたような、いないような。 「覚えているさ。あんまり綺麗になったからわからなかった だけだよ」 かなりお世辞をこめてフォローしておいた。 とりたてて美しくもないのだが。 私の発言の「綺麗になった」という魔法の言葉がスイッチを押してし まったのか。 というわけで、その和子が現在、私の妻となっている。 やはり人の記憶はあやしい。                             おわり
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