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掌で泡立たせて、準備完了すると早速九重の手がオレの方へと伸びてきた。反射的に身構える。せめて背を向けて縮こまると、耳元で九重がクスクス笑った。吐息が耳朶を震わせる。
「そんなに緊張するな」
するに決まってるだろ……。
「め、メガネ! そうだお前、メガネ外したらどうだ? 曇るだろ?」
そしたら、ぼやけてオレのこともよく見えなくなるんじゃねーか? なんて思ったが、甘かった。
「曇り防止加工の特注品だ」
「そんな気はしたよ!! ……ぁっ」
叫びの最後は、情けない声に変わった。九重の手が、するりとオレの首筋を撫でた。ほくろの所。当のオレでさえ知らなかったそこを、優しく拭う。「後で」――夕食の準備をしながら吐いた自分の言葉を思い出して、改めて身体が熱を持った。
……違う、オレは。別にこうなることを期待してたわけじゃ、ない。
九重の手は、鎖骨を丁寧に撫でてから後ろへ戻ると、するすると背中へ下降していく。ぬるりとした掌の感触に、ぞわっと背筋が反る。こそばゆさに息を詰めて耐えていると、今度はその手が胸元に滑ってきた。
「……っ」
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