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1-1 神に愛された男
――どうして、こうなった。
「それじゃあ、精々いい顔しろよ」
頭上から九重の声が降ってくる。愉悦に塗れた低い声。ククッと喉奥から零すような掠れた笑い方は、普段の奴からは想像もつかないくらい残忍で、歪んでる。
見上げると、無機質な携帯のレンズがオレを捉えていた。九重は手にした携帯端末の画面を窺っている。奴の琥珀色の瞳は、こちらを向いてはいない。――だけど、見てる。
レンズを通して画面越しに、九重はオレを覗いている。
オレの一挙手一投足、全ての動作と反応を余すことなく観察しようと、じっと見据えている。
黒い小さな穴から、九重の視線を感じる。冷淡で、酷薄で、なのに執拗な眼差しがオレの総身に絡み付いてくるような感覚に、背筋が粟立たった。
怖い。逃げたい。でも、目を逸らせない。逸らせば、その間に何をされるか分からない。
身動げば縛られた両手首と両足首に縄が食い込み、痛みを主張する。その痛みが痺れとなって、オレの心を怯ませた。鳴り響く警鐘は、胸の鼓動か、全身の脈動か。
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