真実

3/3
前へ
/78ページ
次へ
 その日の夕飯時にこんな話になった。 「宗佑さん、今日私の職場に髪の長い女性が来たんです。双葉さんはいますか? って言われました」  夕飯のメニューはチキンカツ丼。白御飯とチキンカツの間に刻み海苔をばら撒く。  クゥーッ 旨い。  白御飯の上に揚げたてのカツを乗せて、煮詰めた黄金比の甘辛ダレをかける。  マジこれサイコー。  そんな幸せな感情に浸っている俺とは反対に、双葉はお構いなしに喋り続ける。 「私は仕事の方だと思っていたので接客したんですけど、そうではないみたいで」  飲み物はキンキンに冷えた烏龍茶にした。しかも一度沸かした黒烏龍茶だ。味が濃い上にグラスに当たる氷の音が、なんとも風情がある。  それをゴクゴクと飲んでいると双葉と目が合った。 「宗佑さん聞いてますか? 宗佑の浮気の話をしてるんですよ!」  思わず吹き出してしまった。そしてそれは霧吹きのように双葉の顔に掛かる。俺は慌ててティッシュを取り顔を拭いた。 「あっ、ごめん。かなり掛かっちゃったね。って言うか、俺は浮気とかしてないんだけど何でそんな話になったのかな?」  双葉は黙って俺に拭かれているだけで何も言わない。顔に吹きかけたことを怒っているのか? それとも浮気をしていたことを怒っているのか? いや、俺は浮気はしていないんだが。 「宗佑は髪の長い女性が好みなんです、あなたはこんなに短いのに、と言われました。  それを聞いていた上司が仲裁に入ってくれたので、事なきを得ました」  ティッシュで顔を拭いていた手が止まる。双葉にまた嫌な思いをさせてしまった。双葉だけではない、きっとその女性も嫌な思いをしていたに違いない。あの時と同じだ、レイラの時と全く同じだった。 「ごめん。また双葉に迷惑かけちゃったな。その人にも」 「そうですね、これで二度目ですね。ちゃんとしてくれないと困ります」 「ごめん」  双葉は、少なくなったグラスに飲み物を注ぎながら話し始めた。 「その女性は、本当は私が宗佑と結婚するはずだったと言っていました。宗佑さんのお父様が言っていた例の女性なんだなと思いました」 「双葉、ごめん。  その人ね、俺が怪我をする前のお客さんだったんだよ。政略婚の事とか全く知らなくて。でも、ただの常連さんとか固定客の関係だったんだよね。だからプライベートも接触は無かったんだよ。  気が付いたら親父の会社にいて紹介されて。冗談だと思っていたけどそうでもなかったみたい」  それを聞いていた双葉は、表情を変えることなく黙って聞いていた。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加