182と出会い

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 思わず自分から出た言葉に驚き、口元に手を当てたが既に遅し。  その男性は小さくなって自分の袖で濡れたスカートを拭いた。 「本当にごめんなさい」  男性が言ったその言葉を聞いて、我に返った私は二、三歩下がるとその場へへたり込んでしまった。  男性が駆け寄ると、私を道の端へ移動させた。 「大丈夫ですか? 具合悪いですか?」  考えもしなかった出来事と自分から出た暴言とが重なって、私の張り詰めた糸がプツリと切れた。 「大丈夫、です」  それだけを言うので精一杯。  ゆっくり立ち上がると再びヨロヨロとビルに向かって歩き始める。 「待ってください。あの、スマホを。えっと、あと、クリーニング代払います」  入り口の階段をひとつ登り、ふたつ登り。  すると男性は私の腕を掴んで呼び止めた。 「スマホを。あと名刺を渡しますから連絡下さい」  画面の割れたスマホと名刺を握らされて、その男性と別れた。  朝からついていない私。事故なんだろうけど、ここまでズタボロになったのは初めてだ。泣きっ面に蜂とはこの事なんだろうな。  そしてその日はまともな仕事が出来ないまま、終業時刻を迎えた。  ビルから出ると既に日は落ちていた。街のイルミネーションが煌びやに揺れながら、私に遊ぼうよと誘っているようでため息が出る。 「今日も用事は無いから直帰です」  ボソリと言うと誰かが声を掛けてきた。 「すみません」  振り向くと朝のドタバタ劇の男性だ。  何故だか息を切らせていて、手をパンパンと払っている。そしてピアスを指で弾くように触ると話し始めた。 「あの、今朝はご迷惑をおかけしてすみませんでした」 「はぁ」 「元気そうで良かった」  ここで思い出した。私が言ったあの暴言。 「あの、こちらこそ、ごめんなさい。凄いこと言っちゃって、あの、別にアメリカとか全然関係なくて、その」  全く私の言っている事は会話になっていない。男性は笑っていた。 「大丈夫です。ぶつかった俺が悪いんだから。スマホ、大丈夫ですか?」 「えっ、あっ、スマホ?」  ポケットから取り出すと名刺も一緒に出てきた。 「名刺いただいてましたね、忘れてました」 「弁償させて下さい。それとスカートを汚してしまったのでそれも一緒に」  朝は気付かなかったがこの男性、身長がかなりある。私が見上げてしまうくらい高かった。 「でも」 「弁償するのは当然です。その為に出てくるのを待ってたんですから」 「ヘ?」 「実は別れた後、またここに引き返してきたんです。このままじゃ良くないと思って。  それに顔色が悪かったから大丈夫かなって気になっちゃって。もしかしたら早退とかあるかなって思って、ここで待ってました。  でも元気そうで良かった」 「そうだったんですね」  どうやら朝から今の今まで、この寒空の下で私の事を待っていたらしい。
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