地獄の門

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「オーナー、さっき俺の体の事いじってましたよね。まさか脱ぐとかじゃないですよね」 「なに? 脱ぎたいの?」 「いやいや、それは無いです」 「脱げば良いじゃん、女の子が喜ぶよ」 「いやいや、それは無いですって」 「元々背も高いし綺麗だからスタイリストだけじゃ勿体ないと思ってたんだよねぇ。で、今になってだいぶ男らしくなってきたじゃん? やっぱり脱げよ、世の中の女子が喜ぶよ」 「いやいや、それは無いですってば!」  さすがに三回も断れば諦めるだろう。と言うか、脱ぐ気は無いのでそこは頑なに断るって。 「うそだよ。でもお前だったらイケると思うんだけどなぁ」 「どこへですか」 「違うんだよ、お前が前に働いてた店のオーナーに、宗祐を戻したいって相談されたんだよ。  たまたまさぁ、研ぎに来たオーナーがぼやいてたんだよね。宗祐が辞めたら客がみんな飛んでっちゃったんだよーって。こんなご時世だから固定客がーって」  嬉しかった。でも今の俺は客を取るほどの腕はない。スタイリストとして店に立てないならマネキンと同じじゃないか。  それに、俺が完全に元に戻るまで待っててくれるほど時間は無いだろう。 「それは有難いです。でも自分の手で稼げるのはまだ早いかと。満足にカット出来ないし施術時間も掛かるし」 「お前の腕が前みたいに戻るには時間が掛かるかもな。でも違う自分になるなら、ゴールはそんなに遠くないんじゃないか?」 「違う自分?」 「そう。違う自分と違った道ってこと。  あの頃の自分に戻ったは良いけど、アレが違うコレが違うって比べるだろ? それは、そこで止まったままのあの頃の記憶に似せようとしているから比べちゃうんだよ。あの時の続きとかやり直したいからだったらまた違ってくだろうけど、絶対に同じにはできないって。だって俺等、生きてるんだもん。  今は、未来に進み続けていて止まることを知らない。時間も進んでるんだから止まれないよね。  過去は変えられないし変わらない。振り返った時が思い出したとき。それに浸れるようになったら思い出になったときなんじゃないか?  そうやって気持を変えて自分にプラスに生きていかなきゃ勿体ないぞ」 「思い出に」 「そう。思い出に」
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