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「宗祐さん、帰ってきてくれたんですね」
俺の中での健太は後輩であり弟であり、こんなに人懐っこい奴はこれまで出会った事は無かった。そして頼りないお兄ちゃんとしては健太のことが可愛いくて仕方が無い。
「前みたいに最前線では働けないだろうけど、こんな俺にオファーしてくれたオーナーにも恩はあるし昔とはメンツは違うけど、ここの空気は嫌いじゃ無い、的な」
健太はウルウルしながら俺の髪にカラーを入れ始めた。
健太の奴、見た目も手つきも大人になったな。もう一人前のスタイリストだ。俺なんかとっくに超されてるな。
「宗祐さん」
健太は何だかモジモジしながら話してきた。
「なに?」
「宗祐さんはあの時の彼女と今でもお付き合いされてるんですか? 黒髪の方と」
「急にどうした?」
「いえ、あの」
健太は言葉に詰まった。
「双葉とは付き合ってるよ、俺の女神だ」
ドヤ顔で返してやった。すると健太は詰まった栓が抜けたように、俺が居なかった今までのことを話し始めた。
「あの時はすみませんでした。宗祐さんが怪我をしたとき、僕が二人を止められていたら良かったのに。そうすれば宗祐さんは今でもここでチーフしたてのに」
「良いんだよ、そんなに自分を責めるな。あれは事故だったんだから」
「わかってます。けど、宗祐さんに申し訳なくて」
「お前は悪くないから気にするな」
「宗祐さん。聞いてもらいたいことがあるんですけど良いですか?」
鏡越しに健太を見ると恥ずかしさが隠しきれなかったのか、俺に告白でもするかのような顔で下唇を噛んでいた。
「お前は乙女か」
「宗祐さん、それは言い過ぎじゃないですか!」
怒った顔も男らしくなったなぁ。
「で、何だよ」
「僕、今、付き合ってる人がいます」
「そっか、良かったじゃん。俺の知ってる人か?」
「はい、レイラです」
その発言に驚いた俺は、自分の目が三倍くらいに開いた気がした。
「おぉ、それは驚き。健太もかっこ良くなったからな。レイラに見初められたか。そっか、良かった」
「ありがとうございます。なんか言いにくかったんですけど、宗祐さんには分かってもらいたくて」
「何を?」
「僕とレイラのことを。だって、前に宗祐さんと付き合っていたじゃないですか」
「そうね」
「だから、あの。僕の大好きな先輩だから知っていてもらいたかったんです。でも」
「良いんだよ、お前が幸せならそれでよし」
俺は口角を上げて笑って見せた。
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