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その件についてカラーの施術をしながら話をした。
俺が怪我をしてから、この店は何らかの現場になっていたらしい。修羅場だったり会議場だったり傷害現場だったり。精神的に病んでしまったオーナーが叫んだ。
「宗祐ぇー!」
渾身の雄叫び。そして俺の名前を叫ぶ。
みんな驚いたようだ。
オーナーは、俺に怪我をさせてしまった事に対して謝罪しきれない程の負を背負っている。そんなオーナーの心の中で潜在意識となって出た言葉、宗祐。さすがに嬉しかった。が、俺としても申し訳ない気持があって、今まで近寄ることも出来なかった。
でも、今度は俺がオーナーの力になろうと戻ることにした。
「前みたいに働けないけど大丈夫かなぁ」
俺がそう言うと、この流れを分かっている人達は喜んで迎え入れてくれた。
レイラに関しては、健太がケアをしてくれている。
琉成に髪を切られ傷心しているところを健太が助けたらしい。レイラの髪をショートにして可愛く仕上げ、今では一緒に生活を共にしている。
「健太は優しいな。きっとレイラはそんなの所に惚れたんだよ」
恥ずかしそうに俯く健太は幸せそうだった。
「宗祐さん、僕、レイラと一緒に田舎に移ろうと思います」
「えっ? そうなの?」
「レイラの田舎に移住します。レイラがやっぱり都会は怖いって」
「そっか。レイラの田舎は確かド田舎だったよな。お前馴染めるのか?」
「僕の田舎もド田舎なんで大丈夫です。蛙も蝉もミミズも平気ですから」
また一人ここを離れるのか。寂しいけどそれを求めるなら止めることは出来ないな。俺も一旦は離れた人間だ。その気持ちは分かるよ。
「宗祐さん、今までのレイラの事聞きたいです。もしかしたらもっとしかりとバックアップしてあげられるかも知れないから」
「それは止めとけ。新しい人生に俺のことを持ち込むのは良くないよ。実際にそのシチュエーションになった時、ヤキモチ妬いて嫌な思いをするのはお前だぞ。見たままのレイラを大切にしてやれば良いんじゃないかな」
健太は頷いた。
「レイラは素直で優しい子だよ。大事にしてやれよ」
レイラのショート姿も見てみたかった。でもそんな時間も無く、しばらくして健太は店を辞めて田舎に行ってしまった。
俺はまた店に戻る事が出来た。が、左手が上手く動かない事もありスタイリストではあるが事務作業を中心に働くこととなった。
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