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あれからどれくらい経ったのか。二人で抱き合い確かめあった時間が夢ではなかったとを信じたい。いつまでも続くであろう幸せだと信じたい。
どんなに強く抱きしめてもとろけて交わることのないお互いの人生は、現実と平行して前に進む未来しか見えない。
これ以上愛を育てることはない、そして二人で夢を語れない現実とが入り交じり涙がこぼれる。
私が甘い甘いチョコレートだったら大好きな宗佑に溶け込めただろうに。
私が可愛い犬や猫だったら無条件で可愛がってもらえただろうに。
そんな子供染みたことを考えながら、今だけはとその胸に埋もれて宗佑の鼓動を感じる。
「ごめん、もう帰るね」
そう言って起き上がろうとした。そんな冷たい言い方をした私の腕を掴んで離さない宗佑。
「帰ったら、きっとここへはもう来ないよね?」
図星だった。そのつもりで抱かれて全てを終わらせようと思っていた。家も出て仕事も辞めて、この楽しかった思い出と一緒に誰も知らない所へ行ってしまおうと思っていた。
「そんなことないよ」
その言葉には重みがない。もちろん真実味もない。私の態度を見てここへ戻らないことを宗佑は悟っていた。
「双葉、俺の話を聞いて貰ってもいいかな」
俯きながらブラウスを着る私。白いワイシャツを着て袖をまくる宗佑。
リビングへ移りコーヒー淹れながら、私のことを時折見ながら独り言を呟く宗佑。
「俺が淹れるコーヒーは美味くないんだよな。人に淹れてもらうのが美味しいんだよ」
「尖ったおにぎりも好きだな。具はシラスがいい」
「杏仁豆腐に乗ってる赤い奴はいらないかな。なんで白い上に赤いのが乗ってるのかがわからない」
何を言いたいのか全くわからなかった。でも、杏仁豆腐の赤い奴については即座に反応してしまった。
「それはクコの実です」
宗佑は私を見てニッコリ笑った。その顔を見て私もホッコリした。
「やっと笑ったな」
私の前にコーヒーを置くと向かいに座った。
「宗佑さん、私帰りますね」
そう言って立ち上がったが宗佑は止めることをしなかった。コーヒーをすすりながら私の行動を見ている。
そうなると私も帰りづらくなってしまう。じっと見られてると動けない。なんだかその威圧感に押されて、再び倚子に座った。
「双葉、そんなに早く帰りたいの?」
「いぇ、あの、そうではなくて」
「ずっとここにいれば良いじゃん」
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