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その言葉に惑わさせる私。
別れようと決めたのに。
出来ることなら一緒にいたい。
でもみんなが笑顔になるには私がここにいてはいけないんだ。
泣くのはそれからでもいい。
「今から長い話をするけどいいかな?」
目も合わせられないまま頷くしか無い。黙ってコーヒーを飲みながら耳を澄ませた。
「結論から言うね。俺は双葉とは別れないよ」
その言葉に思わずカップの取っ手をぎゅっと握った。
空気清浄機が送り出す風が、観葉植物の葉を右に左にと揺らす。まるで私の心を読んでいるかのようだ。
「別れる理由はない。だからここにいなよ」
宗佑はなぜこんなにも強気で引き留めるのかわからなかった。
「俺、親父とこんな交渉をしたんだ。
親父の仕事を継ぐ代わりに双葉を嫁にもらう。その条件が飲めないなら紙の上だけの親子関係を切らせてもらう。そう言ったんだ。
元々血の繋がりの無い親子だから、必要なら他の誰かを養子にすればいい。俺は跡取りのためにもらわれてきた子なんだよ。そうやって育てられてきたんだ。
それでも嫌というなら、双葉と一緒にここから消えるから。知らない人と結婚なんていつの時代の話だよって言ったんだ」
私はなんて返せばいいのが迷ってしまった。
「双葉を嫁にもらうなんて言っちゃって。まだプロポーズもしてないって言うのに」
コーヒーカップを握る手に力が入る私。
「子供が出来なかった両親が産まれたばかりの俺を引き取ったんだ。俺の母親は、俺を産んで直ぐに事故で亡くなった。だから親父とは血の繋がりが無いってわけ。
でも俺を跡継ぎにしようと教育をするわけさ。家系図やら土地やらを見せられても、まだ子供の俺は何のことだかさっぱり分からなくて。お父さんの言うことはちゃんと聞かなきゃって必死で覚えたよ。
そして両親に子供が産まれた。俺が小学校一年生になった頃かな。お前は実の子ではないって言われてたから、あー俺捨てられちゃうんだなって」
「そんなぁ。小さな子供に実の子ではないとか言うなんて酷い」
「親父はそう言う人間なんだよ。双葉も親父に会ってみて思ったろ? こんなに爽やかな顔して酷いことを平気で言っちゃうんだなって」
私は眉間にしわを寄せながら頷いた。
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