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「両親は本当の子供ができたから俺はもういらないわけじゃん。弟が後を継げば良いだけなんだし。でも、世の中上手くいかないもんなんだよ」
「どうしたの?」
「親父は弟に跡継ぎ教育したんだけどさぁ、コイツが出来の悪い奴で」
宗佑はそう鼻で笑いながらコーヒーを一口飲んで喉を潤す。
「高校くらいになると、地元の暴走族みたいな奴らとツルみはじめて悪いことばっかするのよ。で、親が金持ちだって分かると金をせびられるわけ。そのうち弟は暴走族のATMになって、それを断ったらリンチに合う。で、そのまま死んだよ。
俺が担いで病院に連れて行ったんだ。その時はまだ意識はあったんだけど、夜中に急変してね。担いでた背中で弟が言った最後の言葉が、兄ちゃんありがとう、だった。
なんだかドラマみたいな話だろ? でも実際にそんな話があるんだよ」
衝撃的過ぎて言葉が出なかった。
「警察もいい加減でさ。暴走族が差し出した偽物の加害者を逮捕してそれで終わり。アイツもコイツも全て終わり。でも俺だけは違った。跡継ぎ教育が再び始まった」
宗佑は大きくため息をつくと、一旦寝室へ行った。何事もなかったかのように帰ってくると、元の場所に座りコーヒーを飲む。
「俺、その時はもう美容師始めてたからね。今更跡継ぎとか面倒すぎるでしょ。だから、猶予を貰ってたってわけ。そんな時に双葉と出会った」
今までこんなに辛い思いをしていたなんて全然知らなかった。
しばらくの沈黙が私の心臓を止めにかかる。
「なぁ双葉。俺じゃダメかなぁ。双葉にはずっとそばにいてもらいたい。その短くなった髪も俺が一生面倒みるから」
なぜだろう、涙が出た。鼻もすすった。手放しでは喜べない自分が情けない。これだけ熱く話をしてくれた宗佑の気持ちを受け止められない自分が本当に情けない。
「ごめん、返事は急がないから。俺、待ってるから」
私はなんて言葉を返したらしいのかわからなかった。でも、言いたいことは一つだけある。
「宗佑さん。人に物を頼む時は、そんな言い方じゃダメです」
「はい、そうでしたね」
宗佑は背筋を伸ばして座り直すと、ズボンのポケットからケースを取り出し私に向けてパカッと開いた。
「双葉。残りの人生は俺と一緒にいて欲しい。幸せにします。結婚して下さい」
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