第五話

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「このまま座って」 ゆっくり腰を下ろして太ももに体重をかける。 彼は僕の肩に頭を乗せて腰に抱きついてきた。 あまりの密着度に身体がかちんこちんに固まってしまい、手の置き場がわからずに自分と彼の間に収めた。 「ふふっ、緊張してる?」 「・・・うん・・・」 まだ名前しか知らない男の胸に抱かれているという事実になんとも言えない気持ちになる。 「あったかいね、そんな緊張しないで。さっきはごめん、聞かせるつもりはなかったんだけどさ。さっき着替えたでしょ。念の為チェックしてたら靴の中から発信機が出てきたんだよ。流石に俺も旭もびっくりしちゃってさ、同じ業界だったり、どこぞの業界の重鎮とかに使われる様なかなり精度の高い発信機だったんだよ。お母さん結構そういうのに詳しい人だった?」 いや・・・考えてみても僕の中で母は特にそういった機械に詳しいという印象はなかった。携帯も僕の前ではあまり弄らなかったし、少し機械音痴気味なのかなとさえ思っていた。 靴の中まで発信機というのはなんだか気持ちが悪い。今まで携帯と靴で僕の外での行動全てが監視されていたんだと思うと、背筋が冷える。  「・・・母は・・・寧ろ機械音痴と・・・思ってた・・・」 「そうか・・・誰が付けたんだろうな。一応こっちでも調べてみるよ」 「・・・あっ・・・ってことは・・・僕の居場所・・・もしかしてバレてる?」 「あぁ・・・すぐに旭が見つけて壊したけど、多分お店に行ったことはバレてると思った方がいいな。でも大丈夫、落ち着け、俺が隠してやるから、心配すんな」 「・・・うん・・・迷惑かけて・・・ごめんなさい・・・」 「いや、そもそも俺のわがままで連れてきたんだ。迷惑だなんて思わないよ。ここで俺に可愛がられて居てくれれば、俺は嬉しい」 「・・・うん・・・」 彼はなにをするわけでもなく、ただただ優しくあ僕を包み込むように抱きしめていた。 なんだろう・・・抱き心地の確認されてるのかな?それとも可愛がりの一環? 髪を撫でたり、背中をポンポンされてるうちに他人の温もりが心地よくなっていって、徐々に瞼が重くなり、気づけば彼の腕の中で眠りについていた。 ーーーーー刃side まじか・・・ この子寝ちゃったよ。 さっきまであんなに俺の腕の中で固まってたのに、暫く頭や背中を撫でてたら規則正しい寝息が聞こえてきた。 いや・・・正直無防備すぎるな。 ついさっき会ったばっかの男の腕の中で寝るなんて、まぁ、意識されてないんだなというのは伝わってくるが、普通は警戒するだろ、こんな怪しい男。 それにしても、柄にもないことしてしまった。 この子を自分のものに出来たらいいなと、初めて会った時に思ったのは本当だ。死にたい願望があると知った時にはもう考える前に口に出していた。 絶対拒否されると思っていたのに、この子は受け入れた。身体の関係も後々なんて話もしたのに、少し考えて承諾した。 そこまでこの子が追い詰められていたっていうことだとは思ったけど、それでも俺にとってはチャンスだった。 俺はすぐこの子を車に乗せて連れてきた。 普通の子でも非常識な行為かもしれないのに、まさかGPSから発信機までついている訳ありだとは俺も思わなかった。 こんだけの美人だ。親御さんが過保護になるのも非常にわかる。 白い陶器のような肌に、艶々とした長めの黒髪、口元の黒子が色気を醸し出している。身長はそこそこあるのに、その細い身体や腰は男の劣情を駆り立てる。 危ない色気がある子だ。今までもその容姿の所為で色々あっただろうと推測できる。 でもこの子を欲しいと俺は思ってしまったんだ。 俺は誰かと真剣にお付き合いをしたことがない。 後腐れのない関係が一番楽だと思っていて、長続きすると言っても、自分の持っている風俗店のお気に入りぐらいだった。 周りにはうるさいハエが飛び回ったりしていても、そんな奴を気にする必要もないし、俺の時間の無駄だと思っていた。 でもひなはなんだか違う。俺のプライベートな家に連れて帰ってきても、嫌悪感は一切湧かないし、寧ろ自分の家にひながいるのをみて、嬉しいとさえ思った。 なんでだ? 俺の理想を詰め込んだかのような身体と顔に一目惚れでもしたのか? うーん。わからない。ただ側に置いておきたいだけなのか、それとも好きだからなのか・・・ 旭にも怒られた。今まで家にもあげたこともないし、恋人も居なかった俺が、まさかの未成年を拉致同然に連れてきたからだ。 でも俺は手放す気はない。 ちゃんとこの子を俺のものにしたい。 この子が起きるまで、抱きしめさせてもらおう。そう思いつつ、俺はひなの髪に頬擦りをした。
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