第六話

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ポツンと残された僕は長風呂する気が起きず、体が温まった頃に湯船から上がった。 身体を軽く拭いて、さっき言われたバスローブが置かれた洗面台に向かった。 バスローブはものすごく手触りのいい生地で、モコモコしていて、思わず頬擦りをしてしまった。僕はそれに腕を通して前を紐で結ぼうと思ったけど、下着が見当たらない。 ん?あれ?これ・・・まじで? そこにあったのは総レースの三角パンツだった。女性用?にしては前がもっこりしてる様な・・・ これは・・・僕に用意された下着だよね・・・?? まぁ・・・うん・・・下着ぐらいいいか。可愛がるって言ってたから僕は彼のペットみたいなものだよね。自分のペットには確かに好みのもの着せたいっていうのがあるんだろう。 それにしても・・・こういう下着が好みなんだなぁ・・・ 恐る恐る履いてみると、思いの外履き心地が良くて驚いた。締め付け感もあんまりなくて、生地が滑らかで柔らかいからか擦れる感覚もない。 たかがパンツ・・・でも僕は感動した。見た目で判断しちゃダメだなと改めて思った。でも・・・鏡に映った下着姿の自分を見て、なんだか複雑な思いになった。 女みたいな下着履いてるけど・・・胸はぺったんこなんだよなぁ・・・これって男性的には萎える要素じゃないのかな?僕にはそういった経験はないけど、エロい下着履いてて、いいなと思っても股間にぶら下がってるものみたら萎えそうだよね。 まぁ・・・いろんな趣味嗜好の人がいるから一概にはいえないけど、あまりそういった話をしたことがないから知識が本当にない。僕も少しは勉強しないと。 気持ちを切り替えて、ささっとスキンケアを終わらせて彼が待っている寝室に向かった。 コンコンコン 「いいよ、入っておいで」 お許しがあったので、ゆっくりドアを開く。 ドアの先にはシックな部屋が広がっていた。無駄なものがないというか・・・白と黒に統一された家具に大きな黒いベットと恐らく仕事用の机と椅子、あと小さな冷蔵庫のようなものがあった。 「早かったね、おいで、髪乾かそう」 椅子に座って彼に大人しく髪を乾かされる。大きな手が髪の根本を乾かそうとかき上げるのが気持ちよくて目を瞑ってその感触を楽しんでいた。 「気持ちいいの?」 「うん、気持ちいい」 「よし、終わったよ、ひなの髪艶々。俺とは大違いだ」 「その銀髪は・・・染めてるの?」 「あぁ・・・そそ。いつからだろうな・・・いつの間にか銀髪が定着してるんだよな。嫌いか?」 「ううん・・・嫌いじゃない」 「ひなが嫌じゃなければいいよ。嫌って言われたら髪色変えなきゃじゃん」 「・・・そんな・・・大袈裟な」 「いや、割とそういうのは大事でしょ」 「ふふっ」 大真面目に言っているのが何だかおかしい。 彼は僕の髪を片手で掻き上げたあと、顔をスッと人差し指で撫でた。 「笑ってる顔がいいね、綺麗だよ」 「・・・えっと・・・その・・・ありがとう」 「照れてる?可愛い。じゃぁ、俺は風呂入ってくるよ。先寝てていいよ」 「・・・うん・・・」 「喉乾いたらその冷蔵庫に飲み物入ってるから、勝手に飲んでいいよ」 「うん」 「いい子、おやすみ」 チュッ 額に柔らかいものが当たる感触がして、あぁ・・・おでこにキスされたんだと自覚した。 彼が出て行ったドアを僕はぼーっと見つめていた。 何だか・・・甘い・・・物凄く甘い。砂糖漬けにされている気分だ。 まだ家を出て一日も経っていないのに・・・こんな生活していいんだろうか・・・ 高そうな服に、豪華な食事。今までも衣食住には困るような家庭環境ではなかったけど、なんとなく僕には分不相応な気がしてどうしたらいいかわからない。 僕はペットみたいなものだし・・・彼が求めれば僕は出来るだけ応じるつもりでいる。それこそ身体の関係も・・・でもどうすればいいのかわからないな。 母は怒っているだろうか・・・僕がいない家でみんな仲良くやっているんだろうか・・・僕はこれからどうなるんだろう・・・ 疑問が次々と浮かんでは答えのないまま積み上がっていく。 あぁ・・・めんどくさい・・・もう寝よ。 ふかふかの枕に顔を埋めて僕の意識は深い眠りに包み込まれた。
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