第八話

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僕はぼーっと彼らが立ち去った玄関を見ていた。 「えっと・・・陽太様?」 あぁ・・・そうだ・・・今1人じゃないんだ。確か細川さん?と今二人っきりだったか。 この人も背が高いなぁ・・・180ぐらいありそうだな。黒髪のオールバックでスーツをビシッと着ていて、タレ目で優しげな雰囲気を纏っている。 さてと・・・これはどうしたらいいんだろう? 若干気まずい空気が流れている。 なんか話さないと。口を開きかけた時、僕より先に細川さんが話し始めた。 「申し訳ございません。改めまして細川栖と申します。スミでも細川でもなんとでもお呼びください。今日から陽太様の専属の護衛を勤めさせていただきます。なんなりお申し付けください」 「陽太です。よろしくお願いします。スミさんって呼んでもいいですか?」 「いいえいいえ、さん付けなんてとんでもございませんっ!若様の大事なお方とお聞きしておりますゆえ、是非、スミと呼び捨てでお願い致します。敬語もいりません」 結構敬語なしで話すの大変なんだけどなぁ・・・でもそれもそうか。彼にはタメ口なのに、彼の部下には敬語ってちょっと示しがつかないとか? 「・・・う、うん・・・わかった」 「環境が変わって色々気疲れしているかもしれません、今日はごゆっくりお過ごしいただければと思います。もし暇な様でしたら何かご用意致しますが、欲しいものなどございますか?」 欲しいものかぁ・・・ぼーっとしてるの得意なんだけどなぁ、こういう時って何するのがいいんだろう? 「何すればいいかな・・・」 「うーん・・・そうですね、ゲームや読書などはされますか?」 いや、ゲームはやったことないし、読書も母に勉強関係のもの以外は買ってもらえなかったのでしてない。 頭を横に振る。 「そうですか、もし眠くないのであれば、宜しければ、スミとお話ししませんか?」 「お話?うん・・・僕あんまり話すの得意じゃないけど・・・それでもいいなら」 「もちろんでございます!何か今後のことや気になることございますか?スミの答えられる範囲であればお答え致しますので」 気になること・・・気になること・・・ やっぱり頭に浮かんでくるのは、母と学校ぐらいだなぁ。ペットになった今では僕はどうしたらいいんだろう。 「学校って、どうなる?」 「あぁ、陽太様は高校生でいらっしゃいましたね。そうですね、若様に一度確認を取らないといけませんが、高校は卒業した方がいいですよね・・・でも状況が状況なので、明日はお休みということになりそうですね。学校に関して方向性が決まったらすぐにお伝えいたします」 よかった。とりあえず明日は行かなくていいみたい・・・学校に戻ったら母と弟に確実に見つかるし・・・ そう考えると学校以前に外に出るのが怖い。 今まで逃げ場がなかったから考えたことなかったけど、またあの生活、あの家に戻るかと考えただけでこんなに怖いなんて・・・1日で随分変わったな。 ぎゅっ・・・ 「陽太様、大丈夫でございますか?・・・少し失礼致します」 そういって僕が思わず握りしめていた手を解いてくれた。 「あぁ、よかった。あまり強く握りしめると怪我をしてしまいますよ?何かスミの言い方が悪かったのでしょうか・・・申し訳ございません」 あ・・・スミは悪くないのに、謝らせてしまった。 「スミは悪くない。ごめんなさい」 「何かお悩みでしたら、なんでもスミに話してください、お一人で抱え込まないでくださいね。そういえば、後日もう1人護衛が増えます」 「もう一人?」 「はい、流石に私だけだと常に対応出来ないので、黒岩類(くろいわ るい)と交代制で担当いたします」 「うん」 とりあえず学校のことは今心配しなくていいみたいなのでほっとした。ほっとすると気にしないでいたことが気になってくる。 僕は思い切ってスミに聞くことにした。 「ねぇ・・・スミ」 「どうされました?」 「僕ってなんだろう?」 「と、申されますと?」 「えっと・・・君たちの言う若様かな?にとって、なんだろうなって。僕はペットみたいなものかなって思ってるんだけど、スミはどう思う?」 一瞬の沈黙がやけに長く感じた。 「そうですね、これは陽太様がご自身で若様にお聞きになった方が宜しいかと思います。ですが、スミが護衛に決まった時に言われたことは、若様の大切なお方なので、命をかけてお守りしなさいとのことでした。これが答えになりますでしょうか?」 「大切な・・・」 「はい、先程陽太様に対する態度や目線などもスミは最初腰が抜けるかと思いましたよ、初めてあんな若様を見ました」 「そっか・・・答えてくれてありがとう」 「いいえ、とんでもございません」 若干気まずく思ってしまった僕はスミに寝室にいるからと伝えてリビングを離れた。 使っていいと言われた自分の部屋か彼の部屋か悩んだ結果、彼の寝室に入ることにした。 数時間前まで彼と一緒に寝ていたベットはもうすでに冷え切っていた。 横になって布団をかぶると、枕からほのかに彼の匂いがする様な気がして、不思議な気分に浸っていた。
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